50. それは山田の賭であった。 飛び降りる先に大きな木があることを確認した。 生い茂る緑。そこに飛び込めば、もしかしたら何かに引っかかって助かるかもしれない。 それは光と薮がそう簡単に「四人で死ぬ」ことを選ぶと思わなかったから。 山田は最後まで二人を疑っていた。 けれども、中島はそうではないだろうと思うと胸が痛んだ。 結局どう心が揺れても、壊れても、中島は悪人にはなれないのだ。 山田は中島の手を掴み、狙いを定めた場所に飛び込む。 思ったよりも深く落ち、細かい葉や枝が二人を傷つける。 きっと顔は傷だらけなのだろうと思った。でもそれももうどうでも良かった。 やがて少しばかり太い幹に引っかかることが出来ると、山田は恐る恐る目を開ける。 中島と自分を繋いでいる手は絶対に離さなかった。だから、隣には彼がいた。 「…、…」 裕翔くん、と声をかけそうになる。 でもそれは声にはならなかった。 目を開け、けれども再び目を閉ざす。 何故だかもう一度目を開くことは辛く感じた。 それは耳の奥、遠くで何かが爆発する音を聞いたからだろうか。 山田は中島の手をギュッと握りしめる。体温が伝わった。 生きている。 自分たちは、生きているのだ。 「…裕翔くん…」 山田は頬の一部に焼けるように熱を感じていた。 もしかしたらひどい傷を負ってしまったのかもしれない。 「、…ゆう、と…くん…ゆうとくん…」 手を痛いほど握りしめて山田は縋るように中島の名前を繰り返し読んだ。 無性に怖くなった。 パラパラと頭上にこの島に来て初めて聞くような音、ヘリコプターの音を聞いた。 同時に掠れた放送も聞こえてくる。それは二人の勝利を義務的に伝える音であった。 何故かひどくあっけなく感じ、山田は瞳に涙を滲ませる。 握りしめていた手のひら。やがてそれは握り返される。 「山ちゃん」 霞みそうになる目を開いて、山田は中島のことを捉えた。 中島は、彼もまたしっかりと山田のことを瞳に捉えていた。 白い、幼い、細い手のひら。繋がれて、永遠に。 ――永遠に。 どやどやと賑やかな音が聞こえる。 多分大人たちが自分たちを引き上げる準備をしているのだろうと二人は思った。 「助け、られたら」 中島がポツリと呟く。 助けられたら。 このまま身体を引き上げられたら。 優勝だと、褒め称えられたら。 「助けられたら…、…――かな…」 「……」 「…落ちれば、…――なのかな」 そんなことを今更言うのかと山田は笑った。 何の意味もない。 何の意味があって。 (その先に見えるものは、) でもこの繋がれた手のひらだけは、嘘じゃない。そう言うのなら。 そうだね、と山田は呟いた。 大人たちの声が聞こえる。 助けられたら、どうなるのか。 このまま落ちれば、何になるのか。 そして二人が選んだ、道は――… * 僕が目を開くと、そこはいつもの部屋だった。 大きな鏡と、白いボード。薄いシャツを来た少年たちが踊り続けている。 少し眠っていたようだった。喉の渇きを潤すために、ペットボトルに口をつけた。 中途半端に眠っていた所為だろうか、少しだけ頭が痛かった。 こんなとき、時々思い出す。 それは「彼」のこと。 「彼」は同じくらいの年頃の男の子で、僕より少し背が高くて、僕より少しダンスが上手だった。 ――君、名前、なに? 誰も知らない場所で最初にそう話しかけてくれたのが、嬉しかった。 同じような場所で、同じような衣装で、同じような振り付けで踊る。 でもある日「彼」は突然いなくなった。広いレッスンの部屋を見渡してもどこにもいなかった。 誰かからの噂で「彼は辞めた」と聞かされた。 僕は何も知らなかった。何も言われずに、去っていった。 とても裏切られた気持ちでいっぱいだった。友達だと思っていたのは僕だけの方だった。 やがて間をおくことなく他の子が、辞めた「彼」の場所に入って一緒に踊るようになる。 でもその子も、しばらくして辞めた。僕はまた何も知らなかった。 やがて僕がマイクを持って歌うようになった頃、同じ頃にオーディションを受けた子の中で残っているのは僕くらいになっていた。 「後輩」が増えて「先輩」と呼べる人が少なくなって。それでも僕は変わらずに、歌い、踊る。 「後輩」の後ろで踊ることもあった。 「先輩」の前で歌うこともあった。 そのときの感情を、何と表現したら良いのだろう。 何のために踊るのか。(何のために、戦うのか) 何のために歌うのか。(何のために、武器を持つのか) 何のためにこの場所に居続けるのか。(何のために、生き残ろうとするのか) 何のために辞めるのか。(何のために、死んだのか) きっと全ては自分自身のため。(きっと全ては、自分自身のため) だから今日も僕たちは、ステージの上で踊り続ける。(戦い続ける) その先にある、未来を信じて。(選んだ道を、信じて) end |