47.



勝利を手にして、見える未来は。



(殺す、殺す、殺す――!!)
知念のプライドはがらがらと崩れ落ちていた。
最初のときほど上手くいかない。自分の思い通りに事が進まなくなっていた。
騙し騙されここまで来て、皆生き残っているのだから、そう簡単にことは運ばないと分かっていた。
しかしそれを思う以上に知念は自分に自信があった。
けれども、もう誰も騙せないのかもしれない。
そう思った瞬間、突然足が竦む。そうなった場合知念はどうしようもなくなる。
正攻法の勝負で勝てるわけが無いのだ。
体格や体力で適うわけが無い、更に戦意を全く持たない京本という「お荷物」すら存在する。
焦れば焦るほど判断力が鈍ることは分かっていた。でも焦らずにいられなかった。
だから中島に鎌の先を向けられたとき、知念の全ては終わった。
裕翔君、と猫のような甘い声で近づいたはずだった。
けれども中島はひどく冷静に「どうしたの」と言っただけだった。
「…なに、こわいよ…裕翔くん…」
中島が山田から取り上げた鎌の先で威嚇され知念の背筋は凍った。
真っ青な顔をした京本が後から知念に追いついて、中島に一睨みされると怯えてその場に立ち竦んだ。
「何って、何が?」
「ちょ、っと…裕翔君」
慌てて制す山田に、山ちゃんは黙ってて、と中島は冷静に言う。
「知念、すごいよね」
「…なに、勘違いしてるの…?僕…何も…ねぇ、」
(ぼくは可愛くていいこだ。)
(みんなぼくのことを好きなんだ。)
(だってぼくは小さくて可愛いから。)
(みんな頭を撫でてくれて、そうすればいいんだよ。)
(だから裕翔君だって、)
「分かるよ、すごく簡単だよ、知念」
釜の先がスイと動いて、知念の髪を掠める。
「お前、それで、何人を殺したの?」



見破られると、後は堕ちるのは早かった。
盾もなにもない。脆いばかりの楼閣であった。
子どもだからと甘くかかれば痛い目を見る。それは大人だから。
そんなものは同じ「子ども」には通用しなかった。
「あ、あ…」
身体の震えが止まらない。
ただ振り下ろされる鎌を見つめるだけ。
「――知念君!」
鎌を振り下ろされる瞬間も、一歩も動けだせなかった知念を救ったのは誰でもない京本であった。
ぐい、と手が引かれて、知念はその衝動に背面から転がる。
鎌は地面に刺さるようにおろされ、ほんの僅差で知念は難を逃れた。
砂埃がわずかに立ち上がる。一瞬の静寂が四人を包む。
「どうしちゃったんだよ、裕翔君!」
何で、と言葉を繰り返し山田は中島の肩を揺さぶる。
中島は何も答えようとしない。
二人がもめている間に早く、と京本は力を無くした知念を引き上げようとした。
「…ッ、だって!」
キン、とそれは普段の中島からは想像できないほどの、癇癪を起こした声が響く。
「だって、知念は僕を騙そうとしたッ!」
ビクン、と知念の身体は揺らぎ、京本はぎゅっと彼の身体を支えるように腕を握る。
「また騙されるくらいなら…殺されるくらいなら…、…」
それならば自分から殺してしまえばいい。
信じていたのに、みんな。なのに裏切るというのなら。



(みんな、勝手だ。)
それは小さな声になって外に出たかもしれない。
ふっと知念が声に反応して顔を上げる。
そこにはこの光景を眺めていた京本の姿があった。
「京、本…」
知念を支えていた腕を振り払う。
サッと動き、もう誰にも握られていない鎌を手に取った。
ハッと気づいた山田が手を伸ばすが、京本は身体をそらしそれらを交わす。
「殺される、くらいなら」
その鎌はおそらく自分たちに振り下ろされるのだろうと山田は覚悟した。
しかし予想は外れ、鎌の刃は反射して京本の顔を照らす。
「…そうされる、くらいなら、自分で死ぬよ」
(君の目の前で)



ザッと嫌な音が聞こえて血飛沫が放たれる。
京本の白い首が真っ赤に染まって、返り血を浴びた中島も山田も真っ赤に染まった。
それは一瞬の出来事。
誰が何を止められるわけもなかった。そんな余裕は無かった。
「…やだ…」
ただ物を言わない死体となった京本を見つめて、知念の目からは涙が溢れる。
それは、けして、京本の死を悲しむ物ではない。
「やだよ、嘘だっ!ねぇ…やだよ…死にたくない…ッ!」
でもその感情が、知念自身が殺めた誰しもが思っていたことなど、とうとう彼は理解することはなかった。
「やだ、ッ、死にたくないッ!死にたくないっ!!」
機械音に混じり泣き叫ぶ知念の声が辺りを包む。
放心する中島を山田は引きずるようにその場から離れようとする。
山田は泣いていた、けれども中島は涙の一つも零さなかった。





「ねぇ、助けてよ!…誰かっ…誰かッ…――…ッ、嫌だッ…!!」





やがて知念の視界から中島と山田の姿が消えたとき、轟音が彼を包む。
そうして、小さな身体は衝撃に耐えきれず、跡形もなく無惨に散った。
それが人を騙し、殺め、嘲笑してきた、自分の勝利を信じて疑わなかった知念の愚かな最期であった。






【知念侑李・京本大我 死亡】



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