46.



多分自分たちは、それほど仲が良いわけではなかった。
仕事も一緒で、学校も一緒で。それはどこか息が詰まった。
互いに深く干渉することは無い。それが、表面上は上手くやることの秘訣のようであった。
そして、ずっと自分たちは「特別」だった。
スポットライトも、センターのポジションも。
自分たちの後ろで先輩が踊ってもなんら疑問を抱かなかった。
だって自分たちは「特別」だから。



(でも簡単に振り落とされる)
(同じグループにいながら、ぼくたちはずっとライバルだったのかもしれない)



どうしてこんなことになったんだろう。
「何とか言えよ!何してんだよ!何考えてんだよ!!」
普段穏やかな感情を持ち合わせ、滅多に声を荒げない薮が光の胸倉を掴んで揺さぶる。
どうしてこの状況で泣けるのか、光には不思議で仕方が無かった。
「――何も分かってないのは、薮の方だよ」
「なっ…、」
いや、そんなことは無いと光は思う。
薮だって分かっている、ちゃんと理解している。
だからこんなことを言うのだろう。
「そうじゃないか。薮だって分かってんじゃん」
「えっ…」
だからなのだと、光は息を吸った。
「薮、トッツーのこと見捨てたんじゃん」
「――ッ!」
あの時、光が戸塚に銃口を向け撃ち放ったとき。
それでもすぐに薮は光のところへと戻った。戸塚を助けようとはしなかった。
その行動が意味することなんて、一つしかない。
「…だ、だって…、あれはもう…トッツーは…」
「死んだから?死んだって、思ったんだ?確認したの?薮の手は、いっこも汚れてなかったよね」
あそこで仮に薮が戸塚を助けたところで、そう遠くない未来にその行為は無意味に変わる。
ペア以外の誰かを助けることに、意味は無い。
ペア以外の誰かを殺すことだけに、意味があるのだ。
それを全部分かっているくせに、と光は薮を睨みつける。
「な、に言って…」
「分かってんだよ。薮は、分かってるくせに、全部俺のせいにするんだ」
「…光…」
薮は光の憧れだった。幼い頃見た彼の姿は今でも褪せることは無い。
だからこんな姿を見たくなくて、認めたくなくて、ずっとここまで来てしまった。けれども。
変えられるはずだった。何もかも。でも何一つ変わることは無かった。
多分自分だって「全部薮のために」などという恩着せがましい台詞を吐くつもりはない。
生きたいのは自分の意思だ。誰かを守ろうとか、誰のためだとか、そういうものは結局言い訳にしかすぎないのだ。
罪を犯した自分への、逃げ道でしかない。
でも、
それでも、
「全部…今までのこと全部…俺のせいなのかよ…」
止めて欲しかった、なんて今更そんな子どものようなことを言いたくない。
それにもし止められていたら、もう生き残ってはいないことくらい光は理解していた。
殺戮を繰り返したことを、全て責任転嫁するつもりは無かった。
ただほんの少しでいいから認めて欲しかった。
誰でもない彼に。



薮の鼓動はドキドキと激しく打たれ、光の言葉を聴くたびに耳を塞ぎたくて仕方が無かった。
だってそんなもの全て認められるわけも無かった。
冷たくなった太陽と翔央。自分が見捨てた戸塚。目の前にいる、光。
口ばかりで何を言おうとも、光を止めたことは無かった。
そこまで光を責めるのなら、自分の命を何故投げ出さなかったのか。
いつだって薮は光のことを止めることは出来た。命を引き換えにすれば、それは簡単なことなのだ。
それをせず光るばかりを責める自分は何なのだろうと薮は思う。
結局自分の手を汚さずに生きたいだけなのではないのかと思う。
それは、どんな誰よりも、一番卑怯な立場なのだ。
「…ごめ、ん…」
薮が謝罪を口にすれば胸の痛みはいっそう増した。
今ここで、認めるのは。自分自身の愚かさだった。
「ごめん、ごめん、…ッ…光、ごめんっ…」
搾り出されるような言葉に光は「謝らないでよ…」と呟いた。
「謝らないでよ…、謝られたって、俺どうしていいかわかんないじゃん…」
これはチャンスなのだとゲームが始まったとき、確かに光は思った。
けれども、今はどうだろう。
そこまでして、掴んだ勝利で、見える未来は何だというのか。
そして、何が見えるのか。



そして、何が見たいのか。



かさりと足音が聞こえて薮と光は振り返る。
血に濡れた彼を見て、最後の相手だと確信した。
「裕翔…」
中島と山田。
生きるのか、死ぬのか。殺すのか、殺されるのか。
その選択も判断もこれで終わる。



光は二人の姿を見て咄嗟に掌で銃を握りしめた。
やはり、全ては自分の所為で薮の所為なんかじゃないと、確信した。



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