45 光に撃たれる太陽。 それを庇って、銃弾に貫かれる翔央。 完璧だと太陽は思った。 自分を守りたい翔央が、自分を守って死んだ。 それが一番美しい死に方だと太陽は思った。 しばらくすれば自分も死ぬだろう。太陽はその場にへたり込む。 火薬の匂い、血の臭い。 翔央は知らなくて良いんだ、何もかも。 だから知らないまま、自分と一緒に、死んでいくのだ。 「…太陽」 それまでとは違う光の穏やかな声が聞こえる。 「んー…」 「翔央…死んだよ」 「うん…」 太陽の心はもうここには無かった。 光りを無くした瞳はどこかボンヤリと見つめていた。 「なぁ、」 「何?」 光は何かを言いかける。太陽はそれに答える。 しかし光は首を横に振った。何も太陽に伝えようとはしなかった。 そして太陽の後頭部に銃口を突き立てる。 「お前は、本当にこれで良かったのか」 「いいよ、おれいっぱい考えた」 「…勝ち残ろうとは思わなかったのか?」 光の言葉に太陽は笑う。 「勝ち残って、どーすんの」 太陽は以前の彼とは違う様子で言葉を繋ぐ。 「俺、全部、覚えてる。俺が殺した人…どんな死に方をしたのかも、全部」 「……」 「どんな目をして、どんな最後の言葉を言って、そういうの全部」 「…太陽」 「そんなこと覚えてて、笑うこと何で出来ないよ」 分かった、と、光は呟いた。 これが彼の望みならかなえて上げようと思った。 もう戻れない。「あの日々」はどこにも無い。 「光、」 「ん?」 「ありがとう」 それが太陽の最期の言葉で、表情は穏やかなものであった。 光に撃たれる太陽。 もう庇う者はいない。 完璧だと光は思った。 「完璧だよ…、…――翔央」 そう光は呟いた。 光は翔央を打ち抜いた後、彼に近づいた。 そしてそっと微笑む翔央に光は目を見開いた。 翔央は全てを知っていた。 太陽の行いを、思惑を、その全てを、知っていたのだ。 なんで、と光は声に出さず翔央に伝える。 翔央は「言わないで」と首を横に振った。 そして光に「ありがとう」と声に出さずに言った。そして、死んだ。 ――何もかも知らなくて良いんだ。君は綺麗なまま死んで。 知らなかったのは、太陽だった。 自分のために一生懸命太陽がやっていたこと、それの全てを翔央は見て見ぬふりをした。 きっと太陽も翔央も弱かったのだと光は思う。 相手を思うがあまりにこんな最期なんて、滑稽すぎると思った。 (そこまでして、守りたいものって何?) そして。 ならば自分たちも相当滑稽だと思った。 「…、…何…してんだよ…」 (何って、見たまんまだよ) 光の足下には二つの死体。 呆然と呟く薮を光は冷静に見つめた。 「お前っ…自分が、何、…したかって…なッ…何で…」 (あぁ、分かってるよ) ゆらりとぐらつく身体を押さえながら光は胸の内で答える。 「何とか言えよ!何してんだよ!何考えてんだよ!!」 (何も、) なにも。 「――何も分かってないのは、薮の方だよ」 冷たいまでの声で光は呟く。 薮はただぼろぼろと涙を零すだけだった。 (滑稽すぎる、こんなの。よっぽど、翔央と太陽の方が、) 【鮎川太陽・山下翔央 死亡】 next |