44.



もうほとんど最後になるであろう放送を聞いて太陽は千賀と二階堂が死んだことを知った。
何故あのとき助けたのかは、本当のことを言えば今でも良く分からない。
上手くやればまた翔央に気づかれず殺せたはずだ、と太陽は思う。
――太陽は、太陽だよ。
そんな言葉にほだされたのだとしたら自分はまだまだ甘い。
でももうそれを言ってくれる千賀はいない。永遠会うことは出来ないのだ。
そして、そうだとしたら最後に会いたい人たちがいた。
「太陽、大丈夫」
「ん…?」
「いや、…今の放送…」
翔央は自分の本当のことを知らない。その事実が少しだけ太陽を寂しくさせた。
でも本当のことなんか知って欲しくない。知ったところでどうなる。悲しませるだけだ。
「大丈夫だよ、翔央」
人は本当のことを知りたがる。真実を追い求める。
でもそれで幸せにならなくなるのなら、いっそ騙されたままの方がいいのに。
嘘でも偽りでも「思っている」うちは、その人にとってそれが真実なのだから。
「翔央がいるから、俺は大丈夫」
そう太陽が言えば翔央は一瞬間を開けて「何恥ずかしいこと言ってるんだよ」と言いながら笑った。
「…翔央」
「ん?どうした」
「俺のお願い、聞いてくれる?」
知らなくて良いんだ、何もかも。
だから知らないまま、俺と一緒に、



*



「光、やっと見つけた」
「…!」
静かな声に光は振り向く。そこには太陽の姿があった。
光は一人であった。太陽も一人であった。
光は容赦なく銃を構える。太陽は両手を挙げて丸腰なことを見せた。
「ちょっと待ってよ。俺、光のこと殺さない」
「どーだか。ここまで残ってて、良く言うよ」
「…そうだね。俺はいっぱい殺した。…でも光のことは殺さない。薮も」
とても銃を向けられている人間の声ではなかった。
落ち着いていて、それが光には不気味に感じられた。
「光、俺のお話聞いて」
「…何だよ」
それでも、話し続ける太陽を直ぐに殺さなかった。
それは、初めて光が少しだけ誰かに情けを見せた瞬間であった。
「俺光のこと探してた。多分光はいっぱい人を殺してるんだと思ったから」
光と俺は同じだね、と太陽が呟く。
カチャと光はその言葉に銃を構え直す。
ごめん、怒った?と太陽が言った。
「…もうすぐで翔央が来る。二人で手分けして探してたんだ」
「俺たちのことかよ」
「うん」
「何でだよ」
その問いに太陽は直ぐには答えなかった。
代わりに質問をした。
「光、薮はどこ?」
「良いから、俺の質問に答えろ」
「…薮は、どこ?」
冷たい目で太陽は光を威圧する。
きっと銃を持っていなかったら、その場にへたり込むのは光の方であっただろう。
光は観念するように口を開く。
「…さぁ。その辺にいると思うけどな。…俺が走り出したんだよ」
「何で?」
「人影を、お前を、見つけたから」
「殺そうと思って、走り出した?」
「そうだよ」
そっか、と太陽は呟いてから少しだけ目を伏せた。
「やっぱり…怖いね」
「何がだよ。お前さっきから何が言いたいんだよっ」
声を荒げだした光に太陽は「ごめん光のことじゃないよ」と言った。
そして、太陽が来た方向を指さす。
「もうすぐ、翔央来るから」
「…だから…?」
思わず普通に問い返した言葉に、太陽は笑う。
「翔央のこと、殺して?」



*



だから知らないまま、俺と一緒に、



「――お前のお願いって、何だよ」
翔央は言葉を詰まらせた太陽に問いかける。
太陽はポツリと呟いた。
「翔央は光と薮のこと…、殺せる?」
「えっ?」
お前急に何言ってるんだよ、と翔央は太陽に焦った声で問いかける。
太陽は「ごめんね」と言った。
「だって、もうちょっとしか残ってないんだ」
「お前、だからって」
「もし生き残りたいなら、二人を殺さなくちゃ駄目なんだと思う」
太陽はもう一度「殺せる?」と問いかけた。
翔央はゆっくりと首を横に振った。
太陽は笑う。
「良かった。俺そーいう翔央が大好き」



 だから、光にあったとき「殺して」って言った。
 でもやっぱり死ぬのは怖いと思った。
 覚悟を決めたはずなのに、怖いって思った。
 ねぇ俺やっぱり酷いことしてきたんだね。
 ごめんね、って謝ったら、誰か一人くらい許してくれるのかな。
 
 
 
*



「――太陽ッ!」
後から来た翔央は、光と太陽の姿を見て叫ぶ。
光の銃口は迷い無く、翔央に向けられる。
太陽はもう止めようとしない。
やがて耳を裂くような音と火薬の匂いが、辺りを包んだ。



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