41. どうして、と悲鳴にも似た声が聞こえて意識が引きずり出される。 二階堂は、という声も聞こえて薄っすらと目を開く。 一体自分は、とぼんやりとする頭で必死に考える。 目の前には千賀がいて、今までのことは全部夢だったのではないだろうかと、そんなことさえ思ってしまった。 「何で、どうしてっ…だって二階堂は…、藤ヶ谷君っ…!」 千賀が自分の名前を呼んでいる。電話をしている。その相手は藤ヶ谷らしい。 泣いているような声も含まれていると感じるのだが、二階堂にはその理由は分からない。 分からない、それは今の状況の何もかもだった。 いつの間にか千賀がいる。身体のあちこちは不快になるほどに痛みを覚えている。 千賀が藤ヶ谷と話している自分のことをこのまま黙って聞くなんて悪趣味だ、そう思いつつも二階堂は声をかけることが出来なかった。 千賀は「でも、だって」を繰り返し、そして「殺すなんて」と呟いた。 その呟きで二階堂は会話の内容を何となく理解する。 (太輔が、俺を殺そうとしている…?) けれどもそれはこのゲームのルールを考えるのなら当然のことなのだろう。 だからこそ、それこそ最初に藤ヶ谷が「北山と行くつもりはない」と言いペアを変えたのだ。 伊野尾だってそうだ。あの時点で何もかもが決まってしまうのだ。 それなら自分はどうして千賀を探したりしたのだろう、そう二階堂は思った。 出会ってしまえば後は、相手が死ぬところを見るか、自分が死ぬところを見られるかそれしかないのに。 会いたかった。確かにそういう気持ちはあった。 けれども実際会ってしまって、それで、どうしようと言うのか。 突然、千賀が気配を感じたかのように二階堂の方を振り返る。 視線が合うと何とも言い難い複雑そうな表情を見せて、しばらく千賀は黙っていた。 受話器越しには「健永?」という藤ヶ谷の声が聞こえる。 「藤ヶ谷くん…」 二階堂を見つめたまま千賀は言葉をつなぐ。 「…ごめんなさい、…俺、…居場所教えられません…」 『はぁ?!お前それどういう…っ、』 「…ッ…、ごめんなさいっ…!」 そうして千賀は携帯電話を下げ電源のボタンを長く押し、画面を暗くさせた。 もう逃げないと決めたはずなのに、そんな千賀を目の前に二階堂はどうしていいか分からなかった。 「…泣くくらいなら太輔のところ行けよ」 俯いて肩を震わせる千賀に二階堂はそう声をかける。 「泣いてないし…」 すん、と鼻をすする音をたてながら千賀はぎゅうと携帯電話を握り締める。 その様子が少しだけ痛々しくて二階堂は視線を伏せた。 「二階堂、身体…大丈夫なの…」 「別に…お前に関係ないじゃん」 シーツを握り締めてそう言い放つ。 そう言うことしか出来ない。突き放すことしかできない。 それでも、会えたんだ。 会えたから、もういいじゃないかと二階堂は息を呑む。 「俺もう別に平気だから、いいから行けよ。こっち教えないならお前が向こう行けばいいだろ」 「…でも、…」 渋る千賀に二階堂は眉を寄せる。 もういいんだ。ここで終わりにしないと駄目なんだ。 「俺たち一緒にいたって意味ないじゃん」 その言葉は多分一番聞きたくなかったと千賀は思う。 意味がないなんてそんなこと、認めたくなかった。 「…やだ、から」 「は?」 自分が反抗すれば二階堂の眉は機嫌が悪そうに寄せられる。 それはもう癖のようなものだろう。昔からそうだった。 だから変わってないんだと思うことが出来て、そんなことで少しだけ安心する自分が馬鹿みたいだった。 「俺、行かないから。ここにいるから」 強い意志を持ってきっぱりと告げる。 どこにも行かない。もう迷わないと、千賀は決めたのだ。 藤ヶ谷のことを思えば心は痛んだ。けれどもどうしても、今の二階堂と離れることは嫌だった。 「…何言ってんの…?」 「ここにいるって言ってんの」 子どもみたいなワガママな言い方をわざとして、千賀はジッと二階堂を見つめる。 「分かんねぇ奴だな。一緒にいられないって言ってんだろ」 「嫌だっ、それでもここにいる!」 千賀がキン、と荒っぽく声を上げると二階堂は一瞬驚いたようにかたを揺らす。 それから思いっきり機嫌を損ねられたように唇を尖らせて。 「――勝手にしろ!!」 よっぽど千賀より荒い声が室内に響く。 ふん、と怒って背を向けてベッドに横たわった二階堂に千賀は少しだけ胸を撫で下ろす。 そんなに怒っても、どこかへ行けと言っても、「殺す」とは言わない二階堂に安心したのだった。 next |