35.



この場所に来てからというもの、夜をとても長く感じた。
夜は怖い。暗い空が全てを飲み込んでしまうようだから。
「知念君は…どうして、殺すの」
「え?」
京本はずっと知念の一番近くで彼の狂気を見てきた。
簡単に人を殺す、何のためらいもなく、表情一つ変えずに。
ずっと京本は知念のことが怖かった。
ゲームが始まってからというものあまり話しかけることも出来ず、ただ彼の言うままに従っているだけだった。
そしてたくさんの人が死んだ。
知念のことだけを最期に見て、死んでいった。
知念は見られながら、そして生きている。
「…デビューってそんなにいいものなのかな…」
勝利者はデビューが出来る。それをそんなに魅力的に感じているのだろうかと、京本は尋ねずに入られなかった。
どうしてそこまで、と京本は次第にそれが疑問へと変わった。
「知念君はどうして、そんなに…、」
「違うよ」
しかしそれを知念はあっさりと否定した。
え、と京本は顔を上げる。
その視界に映しだされたのは、凛とした、しかし今までのどんなときよりも子どもの顔をした知念の姿だった。
「京本君は僕よりまだ一つ下だよね」
「うん…」
歩くことを止め、知念は京本のことをジッと見つめた。
「楽しいこと、いっぱいあると思うんだ」
柔らかい口調は、知念が殺してきた仲間たちに向けた「演技」のものとは全く違った。
よっぽど今のほうが素直な子どものようで、その言葉の一つ一つが京本の心の中へとすっと入り込んでくる。
「僕はまだ中学生で、知らないことがたくさんある。だから、生きたい」
生きたい。
知念の願いは、ただそれだけだった。
高校生になりたい。
大学生になりたい。
大人になりたい。
もっと踊りたい、歌いたい。
遊びたい、勉強したい。
まだ知らないことはたくさん、満ち溢れている。
そのためには生きなくちゃいけない。
「僕は何か間違ってる?生きて、お父さんとお母さんに会いたいと思うことを、何でそんな風に言われなくちゃいけないの?」
切なそうな瞳は、全く演技ではない。京本は何も言えずに立ちすくむ。
自分だって、未来が欲しくないといえばそれは嘘だ。
未来を欲しがることは、そんなにいけないことではないのかもしれない。



でも、と京本は思う。
でも、それは、死んだみんなも同じ思いを抱いていたはずだ。
みんなが未来を、「普通」の未来を望んでいたはずだった。



「あっ!」
不意に知念の声のトーンが変わって、京本は身体をビクッと動かせた。
知念の、嫌いな声だ。また誰かを発見したのだろう。
もうやめようよ、そう京本が声を掛ける前に知念は飛び出して行ってしまう。
今度は誰?
君は、今度は誰を殺すの?
その子どものような愛らしい笑顔の下に、誰よりも強い野心と狂気が宿っている。
その小さな手のひらで、未来を、「生」を掴むのだ。





「――藤ヶ谷くーんっ、千ちゃんッ!」




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