34.



伊野尾は、聞き慣れない音を聞き、けれども何故だかその音の持つ意味を直ぐに理解できた。
石垣に突き飛ばされ伊野尾はその場に倒れる。
そして伊野尾を突き飛ばした石垣は慌ててその場を離れるように走り出す。
石垣君っ、と伊野尾は叫ぶように彼を呼んだ。
振り向いた石垣の悲しそうな瞳を見たのが最後で、その後で彼の身体が吹き飛んだ。
そして音が消えた。
石垣の首輪が鳴って、爆発をしたのだ。
彼は自分を巻き添えにしないために走り出したのだと、伊野尾は理解する。
下からこみ上げる何とも言えない感情が全身を蝕む。
石垣が死んだということは、吉田が死んだのだ。
玉森を追いかけた、吉田が死んだ。
「……」
伊野尾はふらふらと立ち上がる。
どこにいるの。
自分の知っている玉森は、どこにいるというのか。



玉森は、返り血で赤く染まった身体を拭うこともしなかった。
カラン、と日本刀をその場に落とし有岡の死体からわずかに離れた。
風が吹く。もう戻れないと確信して、どうすることも出来なかった。
ただどうしたって守りたいものが自分にはあって、自分は守られていて。
だからなんだと頭の中で何度も繰り返す。それは言い訳のように。
「…たま、」
そして現れた伊野尾に後ろから声をかけられて、玉森はゆっくりと振り返る。
「…吉田は、俺じゃないよ」
「……」
咄嗟に出た自分を守ろうとする自分自身の言葉に玉森は少しだけ失望した。
いつまでも、結局可愛いのは自分だけなんだ。
伊野尾を守りたいなんて、建前にすぎないのかもしれない。
ジッと止まったままの玉森を見ながら伊野尾はそっと開いたままの有岡の瞳を閉ざした。
そして、有岡にごめんねと呟いた。
「俺…知ってた」
「何を…」
「玉が、岩本と阿部を殺したの…見てたんだ」
「…、…そっか」
玉森の心は思った以上に動揺しなかった。
二つの死体を見ても驚かなかった伊野尾に、何となくそんな予感はしていた。
「あのとき…俺が声をかけていたら、」
「そんなことないよ。吉田と大ちゃんは…どうせ、俺たちのこと殺したかったんだ」
静かに冷静に玉森はそう紡ぐが、でも玉森が殺すことはなかったのでは無いかと伊野尾は唇を噛んだ。
赤く染まってその場所に立っているのは、もしかしたら自分の方だったのかもしれない。
だから。
「もう、いいよね」
「…え…」
「ごめんね、玉森」
「…何で謝るの」
「俺が、おいつめたんだよね」
だからごめん、と伊野尾は呟いて玉森の顔は真っ赤に染まった。
今更そんな風に謝られたって、謝られたら余計にどうして良いのか分からない。
「…ッ、謝らなくていいよ!謝られたって、俺どうしようもないじゃん!」
感情にまかせたまま怒鳴る玉森を伊野尾はジッと見続けていた。
こんなふうにさせてくて、一緒にいたいわけじゃなかった。
ただ静かに二人で、ひっそりと死ぬことが出来たら。
そう思っていたはずなのに、少しでも長く生きたいという欲望がこうさせた。
「殺したんだよ?!阿部も、岩本も、大ちゃんも、俺はただの人殺しッ…、…」



ぼろっ、と玉森の目から涙が溢れる前に伊野尾は玉森に近づいた。
そして手にとって拾った、何人も、何人分もの血を吸った日本刀で玉森の身体を貫いた。
「…俺も、ただの人殺しになったから」
そう玉森に言い聞かせるように伊野尾は囁く。
だから、君はそんなに変わってないよ。



グッと力を入れて玉森を突き刺しながら、もっと幸せな死に方があったはずだと伊野尾は思った。
そしてこれは有岡を裏ぎった罰なのだと、そう思ってずるりを刀を抜く。
最期は泣くものかとぐっと唇を噛みしめた。



【伊野尾慧・玉森裕太・石垣大祐 死亡】



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