31. 石垣は自分より先に駆け出してしまった吉田を追い探していた。 吉田の冷静な表情の下に伺える狂気。 けれども、無意味な殺生を好んでいないことも知っていた。 少し前に遭遇した二人。あれは誰だったのか石垣には分らなかったが、人影が見えたとき、 ――行こう、石垣君。あれは玉森君と伊野尾君じゃない。 ――え…? ――僕が殺したいのはその二人だけなんです。 それだけ言い、その人影には何の興味を示さなかった吉田。 つまり跳ねるように駆け出したということは、その二人のうちのどちらかを見つけたのだろう。 (…まずいな) 何がまずいのか、石垣は判断出来なかったが咄嗟にそう思ってしまった。 吉田が戦えば万が一死んだときに自分も死んでしまうから、まずいのか。 そうであるという気もしたし、そうでないという気もした。 偽善的で奇麗事だと言われても、それはもっと根本的に人が殺し合うということがまずいと捉えているのかもしれない。 「…ん?」 やがて石垣が辿りついたのは一つの洞窟であった。 危険を察しながらも、石垣はその洞窟の入り口に手を触れる。 「…誰か、いるのか」 ひた、と空気の震える音がした。石垣の声が響く。 やや奥まった陰から、弱い声が聞こえたのは一拍置いた後のことであった。 「石垣…君…?」 「…?…伊野尾…」 石垣は思い息を呑んだ。どうやら伊野尾は一人でいるらしい。 ならば吉田が見つけたのは玉森だ。 「…、入っても…いいか?」 「…どうぞ」 石垣の目に映るのは、明らかに気力の無い伊野尾であった。 最初、あの場所で有岡を捨て玉森を選択した伊野尾とは雰囲気が違って見えた。 確かに二日と言えども一瞬も気の休まることのない生活だ。 憔悴してしまうのも分らなくは無い。 「玉森は?」 「ちょっと、気分転換だって。外に出てる」 「…一人で?」 石垣の問いかけに伊野尾はこくりと静かに頷いた。 一人で、よく外を歩けるものだなと石垣は思った。 そして、こんな伊野尾を一人にさせるなんて良く出来るものだとも思った。 明らかに伊野尾は弱っている。 それに玉森は何も気づいていないのだろうというのか。 まさか、そんな。 石垣の知る限りでも伊野尾と玉森は「親友」と呼べるほどの間柄であった。 だから、こんな分かりやすい変化に玉森が気づかないのかと思うと、石垣は不思議でたまらなかった。 「…石垣君」 「うん」 「俺、間違ってたかもしれない」 「…何を?」 「俺の我儘に玉森を巻き込んで、大ちゃんを傷つけて、吉田君を…参加させて」 「……」 「でも…それでも俺は玉森と、」 玉森と。 伊野尾はそれきり言葉を詰まらせ、後はうつむいて何も言わなかった。 石垣は立ち上がり、そんな伊野尾の腕を掴む。 「行くぞ」 「…え…?」 「吉田が一人出駆けだした。…玉森、危ないかもしれない」 「…石垣君…」 伊野尾は石垣に引かれるようにして立ち上がった。 立ち上がった後で、顔を歪めて小さく首を横に振った。 「…違うんだよ、石垣君」 その小さな言葉が洞窟の中に響く。 「危ないのは、吉田の方なんだ」 だって、あのとき、あの瞬間、僕が見た光景は。 どうしたって認めることは出来なかった。 next |