27.



「……」
戸塚はむくりと起き上がり、辺りを見渡した。
隣には倒れている塚田。自分を撃った光は北山と二階堂を追いかけ立ち去っていた。
光の銃弾は戸塚の腹部に向けて放たれた。
衝撃で戸塚が蹲ると、それで「死んだ」と安心したのか二発目を打つことは無かった。
コロリ、と意味をなくし転がった金属の塊を戸塚は拾い上げる。
弾丸は丁度戸塚のベルトに当たり、戸塚自身には何の痛みも無かった。
「…奇跡だ…」
こんなこともあるものだと、戸塚はその弾を見つめながら呟いた。
北山と二階堂は無事に逃げ切ることが出来ただろうか。
何故あのとき、自分の身を犠牲にするような発言をしてまで二人を庇いだてたのかは戸塚自身すらよく分らない。
衝動か、それか、夜中の十二時に聞いた五関と河合の死が自分をそうさせたのか。
「…塚ちゃん」
塚田はもう何も物を言わなかった。
戸塚の首輪が鳴らないところを見ると、生きてはいるのだろう。しかし、それも時間の問題だった。
刻々と迫る自分の死に対して、戸塚は思うところは多々あったのだが、比較的冷静だった。
そして、藪のことを考えた。
北山たちが去った後、光もそれに続いた。そして藪は一時的に取り残された。
直ぐ傍には血を流している塚田と、蹲ったままの戸塚自身がいた。
しかし藪は二人を助けようとはしなかった。
迷うように地面を何度か行き来する擦るような足音が聞こえたけれども、何もしないまま光の後を追ったのだ。
藪と戸塚はそれなりに親しい間柄であった。
それなのに、と思う反面、それも仕方の無いことだと戸塚は思う。
ただ、みんな必死なのだ。
自分の判断で誰が生きるのか、死ぬのか、自分が生きるのか、死ぬのか、それらの全てが決まっていく。
取り返すことも、戻ることも出来ない。
追い詰められた状況で、判断をしなくてはいけない。
何が正しくて、何が間違っているかなんて、それはきっとずっと分らないことだ。
目を瞑ると、かすかにこちらに近づく足音が聞こえる。
もう自分に出来ることは限られたものしかない。
でも何もせずにこのままただし死んで行くのは、それは虚しいと戸塚は思う。
戸塚は自分の着ていたシャツを脱ぎ、塚田の血に濡れたシャツと交換した。
これで自分は最後に何が出来る?
「…戸塚君…?」
「よー」
「…え、大丈夫…ですか…?怪我…ですか?」
「んー、まぁね。でも、平気」
「…塚田君は…?」
「塚ちゃんは打ち所が悪かったみたいで、今ちょっと寝て休んでるんだ」
「そっちは?どーして一人なの?」
「…喧嘩、…しちゃったんです…。…後ろにいるとは思うんですけど…」
そう、と戸塚は呟いた。
何が良くて、何が悪くて。
どうして自分はこんなことしてるのかなんて、分らない。
やがて戸塚の首輪の音が鳴り、相手は「何?」という顔をした。
だから戸塚はグイと相手の腕を強く掴む。自分の傍から離さない。
そしていつも見せる、先輩らしい笑みを浮かべた。





「じゃあさ、俺と一緒にいようよ、裕翔」






「裕翔君!!」
けたたましくなり響く音に中島の後ろを歩いていた、山田は異変を感じた。
腕を掴んでいる戸塚に鎌を向け、隙が出来たところで中島の身体を引き寄せた。
「裕翔君、走って!」
山田は中島の手を引き走り出す。
それから少しだけ遅れてに首輪は眩しい程の光を放ち、白い煙と赤い炎をはじき出す。
山田と中島は爆風に寄って吹き飛ばされ木の幹に打ち付けられる。
それでも山田は立ち上がり、中島の手を引きどうにか爆発の被害を受けない場所まで逃げ切った。
煙で喉をやられ、咳をしても気管に異物が混じっているようであった。
水、と思い山田は鞄を開けようと中島の腕を掴んでいた手を外そうとした。
しかし、反対に中島に捕らえられ山田は目を見開く。
「…な、んで…」
中島の身体は僅かに震えていた。
「何で、ねぇ、何で?俺、戸塚君になんかした?」
「…裕翔君…」
「どうして?戸塚君、今、俺のこと殺そうとしたよね?!」
「…、…」
どうして、などと言われても山田は答えられない。
油断していた裕翔君が悪い、なんて今の中島には言えるわけもない。
そもそも時間ごとの放送で増え続ける死者の名前に中島の口数は少なくなるばかりであった。
中島の「正しい」が「間違っている」と突きつけられ続けている。
そして追い討ちをかけるような戸塚の行動で中島の心は酷く動揺した。
何でどうして、と問う中島の目からはぼろぼろと涙が溢れる。
山田が手を振り解けば今すぐにでも崩れ落ちてしまいそうで。
出来ればこんな彼を見たくなかったと、山田は中島に少しだけ失望した。



【戸塚祥太・塚田遼一 死亡】



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