25.



――分かってると思うけど、俺はお前と組む気ないから。



藤ヶ谷の言葉が、北山の脳裏にこびりついて離れなかった。
当然と言えば当然の答えなのだが、はっきりと言われるとやはり堪えるものがあった。
最初からいがみ合っていたならまだしも、そうではない頃もあったから余計に、そう感じるのだと北山は思った。
思い出さないようにしていた、藤ヶ谷と笑い合っていた記憶がふつふつと蘇る。
いつから自分たちが変わってしまったのかなんて、それは思い出すことが出来ないけれど。
「……つ、…」
「……」
「…ッ…宏光ッ!」
「え、うわっ…、…何、ビックリさせんなよ」
藤ヶ谷に拒まれた北山の横には二階堂がいた。
腕を組んで溜息をついて、とても年下とは思えない態度で北山をジッと睨む。
「俺さっきから呼んでたんだけど」
そっち行き止まりだから、と二階堂が指差しした先は深い茂みが覆っていた。
宏光そっちどんどん行っちゃうし、と唇を少しだけ尖らせながら二階堂は言う。
「あ、…悪ぃ」
「…別にいーけど」
しっかりしろよ、という言葉と共にボンッと二階堂は北山の背中を容赦なく叩いた。
北山は「ぐぇ」と妙な声を発し、へんなのー、と二階堂は笑って先を歩いた。
北山はいつの間にか自分より広くなった二階堂の背中をボンヤリと見つめる。
「…ごめん、な」
「あぁ?だから良いって」
「そうじゃなくて…、年上のゴタゴタに、お前ら巻き込んで」
そう北山が切り出すと二階堂の足はピタリと止まった。
何言ってんの宏光、と二階堂はわざとらしく鼻で笑った。
さっきから二階堂は笑顔が多くて、少しだけテンションが高くて、でもそれらが不自然極まりないことに北山は感づいていた。
「だってお前は千賀と、」
「宏光ッ」
少しだけ語尾を荒げた二階堂がやっと北山のことを振り返る。
何かをこらえているような、無表情を作っているようなその顔を北山はジッと見つめる。
「…もういいんだ。千賀のことは」
何がいいものか、と北山は思う。
藤ヶ谷が千賀を選んだとき明らかにお前は動揺していたじゃないか、と。
けれども自分がそれを言える立場ではないことも北山は分かっていた。
いいわけがない。
でも自分にはどうすることも出来ない。
だからどうしようともしない。
いつも自分はそんなふうに生きてきた、そんな思いが北山の胸の中を渦巻いた。



「あれー北山じゃん」
「トッツー?」
禁止エリアを避けるようにして北山と二階堂が歩みを進めていると、戸塚と塚田に遭遇した。
一応は信頼の置ける関係と、更に戸塚のあまりに敵意の無い挨拶に思わず北山も「よぉ」と答えた。
偶然じゃん、と呑気に近づく戸塚は北山の隣の二階堂に視線を這わせ、弱く首を傾げる。
「あれ、何で二階堂…」
戸塚と塚田は北山と二階堂よりも早くに校舎を出たため事の顛末を知らない。
二階堂は口をツンと尖らせ、フイと戸塚と視線をそらした。
「まぁ、ちょっとな」
「あー…」
二階堂の肩をぽんぽんと叩きながら、北山が場を宥めるように眉を下げた笑みを浮かべ言葉を濁して答えた。
戸塚と塚田はその北山の態度を察し、そっか、と答えた後はそれ以上そのことについて追求はしなかった。
「どう、そっちは?」
「どうて言われてもねぇ…」
ねぇ塚ちゃん、と戸塚が問いかけ塚田もウーンと唸った。
「…死体を、見たよ」
思い出したように塚田が呟き、少しだけその場の空気が張り詰められた。
「誰の」
北山が問う。
「多分、稲葉とか…秋山とか、…あの子たちの」
真っ赤な血で染められた六つの死体。
直視することなど出来ずに、慌ててその場を立ち去った。
「もう見たくないな、あんなの」
そう戸塚が呟いたが、果たして死体を見たいなどという人などいるのだろうか。
(…いるかもしれない)
今自分たちが置かれている状況は異常だ。何を思っても不思議ではない。
それが、許されるわけでもないのだけれど。



「あっ…、…!」
しばらく四人でその場に佇んでいると、別の方からもう一つ声が聞こえた。
「…藪?」
少しばかり距離を置いて見える人影に、北山が呟く。
思わずまた気さくに声をかけようとした、が、強張った藪の表情にそれは出来なかった。
「…え、何…」
「…ッ…逃げてッ!」
叫ぶ藪の声と同時に、銃を構えた光の姿が現れる。
パンッと短く乾いた音が発し、その速さに反応出来たのは誰一人としていなかった。



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