24.



有岡の興奮していた心が落ち着いたのは、寝ているときだけだった。
どうして自分が選ばれなかったのか、それを考えると暗い気分になるからやめた。
そもそも最初に仲良くなったのは自分と玉森で、伊野尾は後から入ってきたというのに。
いつから、どこから、何が原因でこうなってしまったのか。それは有岡にも分らない。
でも、だから、殺さなくてはいけないと思った。
それは自分自身の自尊心を守るためだった。このまま自分が一人で死ぬのは、あまりに惨めすぎるから。
有岡を奮い立たせているのは、伊野尾と玉森の存在。それだけだった。
あんなに大好きだった二人なのに、こんなにもひどい憎しみに変わる自分の心。少し不思議にも思う。
でも、殺す。絶対に自分の手で殺めたい。
そのためだったら何でも出来る気がした。
「…ッ…、やだ、やだやだやだっ!」
支給された鞄はやけに重く、中に入っていた有岡の武器は日本刀だった。
小柄な有岡には使うことが困難であったが、少しだけ習った殺陣と見よう見真似でどうにか振り回せるようにはなった。
殺傷能力は低いかもしれない。けれども刃で身体が傷つくことに変わりは無かった。
少しずつ少しずつ傷つけるのであるから、どちらかと言えば残酷な攻撃をしているのかもしれない。
そして、嫌だ、と叫びながら抵抗する加藤を有岡は逃そうとはしなかった。
自分よりも年下で逃げるだけで攻撃性を持たない加藤を、有岡は切り付け続けた。
(滝野は)
有岡は刀を振り下ろしながら、加藤のペアである滝野のことを考えた。
(滝野は、すごかった)
滝野の武器はただの包丁で、刃渡りこそ立派であったが有能な武器とは言いがたかった。
それでも滝野は身を挺して加藤のことを守った。有岡に立ち向かった。
有岡は滝野を切りつけながら、加藤を羨ましく、そして妬ましく思った。
自分にはこんなふうに、身を犠牲にしてまで守ってくれるような人はいない。
いるんだ、とずっと思っていたけれど、いなかった。それまでの自分が滑稽でいたたまれなくなった。
だから滝野が倒れた後に、恐怖におののき逃げ出しかけた加藤のことが許せなかった。
倒れた滝野に確実にしとめれば加藤は死ぬが、有岡は自分の手で加藤の方を殺したかった。
そのうちに走って転んだ加藤に馬乗りになり、有岡は高く刀を上げる。
勢い良く振り下ろせば、加藤の身体を貫通するだろう。
そうすれば、そう想像して有岡の顔は一瞬歪んだ。
「……ッ!」
微かな痛みを感じて有岡は振り返る。
「…滝野…ッ…」
身体から血を流し、荒い呼吸を繰り返しながら両手で力いっぱい包丁を握り締めている滝野の姿がそこにあった。
けれどももう限界をとうに超えているようで、身体はふらつき目標は定まらず、有岡の腕を僅かに傷つけるだだった。
もう滝野は動けないと思っていたのに。
今でも動いているのが不思議なほどなのに。
その原動力とは何なのか。
有岡の身体に押し倒されていた加藤の身体がにわかに動き出し、ドンッと有岡の身体を突っぱねた。
滝野ッ、と有岡の身体の下で加藤がかすれた声で叫ぶ。
そういうものの何もかもが有岡の感情を揺さぶる。
何で自分は一人なのか。
どうして自分は一人なのか。
(…俺が、いけなかったの…?)



有岡の身体を突き飛ばした加藤は一目散に滝野に駆け寄った。
「滝野、滝野っ!」
「…、…」
「死んじゃダメだ!滝野!」
加藤の言葉に有岡は反応し、再び二人に日本刀を向けた。
死んじゃダメ、死なないで、と加藤は繰り返す。
「そりゃ、そうだよな」
「…有岡君…」
「滝野が死んだら、困るのは加藤だもんな」
「……」
「自分を守ってくれる人がいなくなるから、自分も死ぬから、だから、」
「違うよ」
それまで有岡の攻撃に泣いて喚いた加藤はそこにはいなかった。
瀕死の滝野を守るように抱き止めながら、睨むような視線で有岡を追い詰める。
「…友達だから、死んで欲しくない…」
その言葉に有岡は日本刀を振り落とし、加藤の身体を切りつけた。
もう滝野は動くことは出来ず、最後まで有岡を睨み続けたがやがて静かに目を閉ざした。



息を切らした有岡は、絶対に泣くものかと唇を噛みしめた。



【加藤冠・滝野雄 死亡】



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