23.



血に濡れた二人の姿に橋本は呆然とした。
もう一回、目を開けて。一緒に話して、遊んで。
そんなことが、無理だなんて。
「…うそ…」
「嘘じゃないよ」
深澤が持っていた手裏剣を取り上げ、ハンカチで血を綺麗に拭き取ると知念はポケットにしまった。
後から取り出し深澤を殺めた二枚目の血濡れた手裏剣は、そのまま橋本に向ける。
「橋本君の方が『嘘』だよ」
「…え…」
知念の黒い瞳は澄んだ色をしていた。
同い年だということを忘れそうな子どものような瞳。
「どっちかしか生きられないのに、何で仲良くするの」
亀井も似たようなことを言っていたと、橋本はボンヤリと思った。
「…、だって…」
もしかして自分が間違っているのだろうか。
こうやって二人を殺した知念が正しいのだろうか。
「よっぽど橋本君の方が酷いって思う」
「そんな…」
動揺を露わにする橋本を知念は嘲笑する。
「それとも信用させといて後で殺す作戦?橋本君、そーゆう、趣味?」
人が裏切られた瞬間のあの顔はたまらないよねぇ、と知念は無邪気に笑って、橋本はカッと頭に血が上った。
何で。そんなこと全然思ってないのに。
何で。そんなこと言われなくちゃいけないの?
「…ッふざけんなよ、知念ッ!」
落ちていたスタンガンを取り上げ、ヴンッとスイッチを入れる。
途端、知念はビクリと身体を揺らし怯えた顔つきになった。
「…ぁ、…ごめん、なさい…」
一歩二歩と橋本に怯えるように後ずさりをする。
手裏剣は、ぽたりとその場に直ぐに落とされた。
突然態度を変えた知念に戸惑った橋本はピタリと動きを止める。
「やだっ…ゴメンナサイっ、だから殺さないで!」
キンッと耳を突くような大きな声を上げられ、思わず橋本は眉を寄せた。
何だってそんな大声、と橋本が口を開きかけた瞬間、知念はバタバタと走り出し逃げ出した。
「…は…?」
走った知念の小さな背中を遠くに見て、やがて二人に増えるまで橋本は見続けた。
あれは京本?と首をかしげて、一体知念に何が起こったのか理解出来なかった。



けれども橋本は直ぐに理解することになる。
「…ハッシー…?」
聞きなれた声を聞いて、橋本は振り返る。
「…高木…くん…!」
自分を探して戻ってきてくれたのだろうか。
そのことが嬉しくて安心して、橋本は笑みを浮かべて振り返る。
大変だったんだよ、高木君。
いっぱい、色んなことがあって、悲しいことがあって。
高木君、聞いてよ、高木君。
「…高木君…」
「…ッ…!」
しかし高木は橋本の予想を反して身体を遠のかせた。
「……?」
高木のことが理解できなくて、橋本は口を少しだけポカンと開かせた。
キッと強く睨む高木の視線に橋本は困ったように眉を寄せる。
「それ、…全部ハッシーがやったのかよ」
全部って何。



今の橋本は、スタンガンを構えている。
ついさっき、知念を怒鳴りつけた。許しを請う知念の言葉は辺りに響いていた。
足元には血濡れた手裏剣と深澤と亀井の身体。



あ、と橋本が青ざめ更に高木に近づこうとしたが、高木は橋本からまた一歩遠のいた。
そんな。
そんな、こんなことって。
「待って、ねぇ、まって…たかきく、」
「近寄んじゃねぇよ…ッ…」
冷たい高木の声が橋本の耳に響いて橋本は泣きたくなった。
そんな、だって。
こんなの、うそなのに。
ぜんぶ、ぜんぶ、うそなのに。
「お前何考えてんだよ!」
橋本は声も出せずに首を振ったが、高木が信じるわけも無かった。
完全に橋本を受け入れようとしない、強い拒絶。
「お前それで知念も殺そうとしたのかよ!」
全部、全部知念の計算通りだ。橋本の肩越しに知念は近づく高木を見たのだ。
だから知念は、と橋本は絶望感にかられた。
疑いに満ち溢れた高木の目は橋本を責める。
やだやだやだやだ。
なんでなんでなんでなんで。
そんな目で見ないで。
「ハッシーマジ意味分んねーよ、何考えてんだよ!」
「だから、これは…」
「何が違うんだよ、言ってみろよ!」
「これは、だから、知念が、」
真実を伝えようと、信じて欲しいと橋本は必死で口を開く。
知念が。そう聞いた高木はそれこそ信じられないとうように眉を寄せた。
そして、呆れたような溜息をついた。
「…はぁ?知念のせいにするわけ?」
「知念のせい、って…」
「お前、ホント最低だな」
「…さいてい…?」
「マジ見損なった。ハッシー、そんな奴だって思わなかった」
「…、みそこなった…?」
高木の冷めきった視線が、橋本に向けられた。
そして。
「お前なんか、もう友達でもなんでもねーよ」



ぷつん、と橋本の中で何かが切れた瞬間だった。
持っていたスタンガンのスイッチを入れて、ただ一目散に高木に向かい突き立てた。
高木この言葉は聞こえなかった。ただ無心に、高木の自由を奪うことだけを、橋本は考えていた。
やがて麻痺した高木の身体はその場に沈む。
「…っ、は…」
はっしー、と全身が痺れ声を出せなくなった高木を橋本はジッと見つめる。
それでいい。
自分を拒絶する言葉なんて、聞きたくないから。
「高木君」
スタンガンを傍らに置き、高木の首に橋本は手をかける。
グッと力を入れると、高木の目がビクッと揺れて大きく開く。
「たかきくん」



ねーねー、遊ぼう。



生きている理由は、そこには無かった。



【橋本良亮・高木雄也・亀井拓・深澤辰哉 死亡】



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