20.



(…高木君、ずっと機嫌悪いし…)
橋本はそう感じながら先を進む高木の後をついて歩いていた。
理由は分かっている。有岡が、折角一人になったというのに高木のことを選ばなかったからだ。
確かに高木と有岡は仲が良かった。しかし、「特別なほど」と問われたらそれは微妙であった。
単純に「選ばれなかった」ということに高木は不貞腐れている。
逆に言えばあの場面で「選ぶか、選ばないか」の微妙な関係だからこそ一番気になるのかもしれない。
とにもかくにも、ずっと機嫌の悪い高木を見て橋本は、じゃあ自分は何なのだと考えていた。
(考えたって仕方ないけどさ…)
最近、高木は自分に冷たい。
意地悪をされているわけでは無い。
ただ少しだけ生じた歪がどんどん膨らんで違和感を覚えざるを得なくなっている。
子どもっぽい、と言われているが高木は高校三年だ。
大人っぽい、と言われても橋本は中学二年だ。
価値観、物事への感じ方、捉え方、それらの些細なズレを見て見ぬ振りが出来なくなっているのだ。
(多分、もう僕といてもツマンナイんだ、高木君は)
高木が二つしか年の違わない有岡の方が橋本より気があったとしても、それは仕方ないことなのかもしれない。
それを頭では理解しても、感情で納得することが橋本には出来なかった。
「ハッシー?」
「あ、え…、なに?」
「どうしたの、黙ったままで」
「…ううん、べつに…」
変なの、と言うと高木は再び前を向いて歩き出した。
変じゃないよ、と橋本は少し唇を尖らせてから高木の後ろをついて歩いた。
これじゃまるで悪いのは拗ねている自分の方だ、そう思って橋本は悲しくなる。
ガサガサと茂みの中を歩いては、次第にそれは深くなる。
下を向いて黙ったまま。楽しくない時間は続く。
橋本はただ自分の足元だけを見て歩いていた。
孤独だ、と橋本は思った。
二人で歩いているのに一人なんだと感じた。
(学校じゃいつもそうだったけどさ…)
思わずそう思ってしまって、橋本は慌てて首を振った。
いけない、そんなふうに思っちゃいけない。
そんなの格好悪い、一番隠したいことなのに。
「…、ねぇ…高木君…どこまで歩くの…」
慌てて搾り出された橋本の言葉に、高木は応じない。
チクリと橋本の心は痛む。
「…高木君、このままどこに行くの」
もう少し大きな声で問いかけた。
それでも高木の声は聞こえてこない。
橋本は焦った。
(何だよ、ちょっと前までずっと僕のことばっかりかまってたくせに…)
高木君、高木君はヒドイ。
そういう思いが膨らんで、もしかして高木は悪くないのかもしれないと思いながらも橋本は感情をセーブすることは出来なかった。
ひどい、ひどい、ひどい。
本当は友達のことをこんなふうに思うのは嫌なのに、思わせるような高木君はひどい。
「…、ッ…!無視しないでよッ…高木く…ッ…」
叫ぶように声を発してようやく橋本は顔を上げた。
何だよ、と面倒くさそうな高木の顔がそこにある、はずだった。
「…あ、…れ…?」
目の前に高木の姿は無かった。
ただただ深いばかりの茂みが、橋本の視界を支配していた。
まさか、はぐれた?
自分が下ばかり向いて歩いていたから?
「ウソ…ちょっと、高木く、…」
ふざけて、からかっているなら早く出てきて欲しかった。
こんな状況でこんな場所で一人なんて耐えられるわけが無い。
どうしようどうしよう、その言葉ばかりが橋本の頭の中に響く。
嫌な汗が滲み出る。
鞄を持つ手がじわりと湿った。



「あれ?ハッシー?」
横からそんな声が聞こえて橋本は、バッとその方向を振り向いた。
それは高木の声では無かった。
「…ふ、っか…?」
不安そうな橋本の目の前に現れたのは深澤だった。
深澤は笑っていた。



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