19.


二日目の朝。快晴。
そして流れる放送に息を呑む。
(宮田が死んだ…)
その事実は確かに玉森の心を動揺させた。
罪悪感で胸がキリリと痛む。
死ぬ前にもう一度会いたかった、ただ一言謝りたかった。
でもそれは罪悪感で押しつぶされそうな自分を許して欲しかっただけなのかもしれない。
宮田なら許してくれる、そんな卑しい思いがどこかにあった。
宮田の言葉で許して欲しい。
自分をこれ以上嫌いになりたくなかった。
「…玉森」
「あ、…何…?」
「後悔してんの。俺と来たこと」
「…そうじゃない…」
けど、と玉森は言葉を詰まらせた。
誰に殺されたのか、そうじゃないのか。
楽に死んだのか、苦しんで死んだのか。
何を思って、自分のことをどう思って死んだのか。
(…裏切ったって、俺のことそういうふうに思って死んだなら…)
それを気に病む権利などそれこそ無いのだと玉森は思うが、心の隅で何かが燻る。
「…伊野尾ちゃんは、さ」
「うん」
「…大ちゃん死んだら、ショックなんじゃないの」
宮田に許されないのならばせめて誰かに「そうだよ」「仕方ないことだよ」と言って欲しかった。
それを伊野尾に託すのは最低だと、玉森は思う。
こんなことを言ったところで、自己嫌悪は膨らむばかりなのに。
でも、そうだね、と言って欲しかった。俺は裏切ったから、と同じように思って欲しかった。
自分だけが「酷い」だなんて、それは耐えられない。
「別に、ショックじゃないよ」
凛とした伊野尾の声が玉森の耳に届く。
「…うそ…」
「嘘じゃない。そんなこと思うくらいなら最初から玉森を選ばないよ」
伊野尾の言葉に、玉森の胸はまた一つ痛みが増した。
自分は本当に何もかも中途半端だと、玉森は思った。
伊野尾は本気で自分を選んでくれたというのに、自分はもしかしたら本気ではなかったのかもしれない。
だからこうやって宮田に未練を持ったり、有岡のことを気に病んだりするのだろう。
せめて自分を選んでくれた伊野尾には、誠意を見せたいつもりなのに。



(…誠意…、って何だろう)



その後、二人は平野に面した崖を沿うように歩く。その間は会話らしい会話は無かった。
途中、伊野尾が「ちょっとトイレ」と近くの小さな施設のような場所に入り、玉森は外で待っていた。
「…、――…、」
ジッと黙ってその場で伊野尾を待っていると、小さな人の声が耳に届いた。
誰、と思って玉森は身構える。
「…マジ怖かったんだけど…」
息を切らせた二人の声が聞こえて、玉森は木に隠れその方向を見やる。
岩本と阿部。
二人の身体は怯えるように震えていて、とても弱弱しく玉森には見えた。
「ね、…山田くんすごい目してた…」
玉森は考える。
伊野尾に対する誠意とは何だろう。
伊野尾が自分に見せてくれた気持ちは、誰よりも選んでくれたということ。
あの50人の中で、自分を選んでくれたということ。
宮田に許されないのなら、有岡に恨まれたのなら、せめて伊野尾には好かれたままでいたい。
(もし伊野尾ちゃんに嫌われたら…)
自分以外の全てを敵にまわして平気でいられるほど、玉森は強くは無かった。
玉森の身体はほぼ無意識に身体は動いていた。
そして、阿部の細い背中を力任せに押し飛ばす。
あっ、と声をあげる前に阿部はそのまま崖の下へと落ちて行く。
次いで玉森は岩本の身体にも手を伸ばし、彼を突き落とそうとしたがかわされた。
もう死ぬくせに、抵抗なんて。
玉森の口が静かにそう動くと、岩本は一瞬だけ動きを止めた。
掴んだ腕をぐいと旋回させて、岩本の身体も崖の下に叩きつけるように落とす。
二人を突き落とした崖の見えない底を、ただただ玉森はジッと見つめる。
一瞬だった。
息が切れた。
こんなことをしたのは、まるで自分ではないみたいだった。
大変なことをしてしまった。
でも、そんなに大事では無かったのかもしれない。
追い詰められ、衝動に駆られ、たった一瞬の出来事だった。
(だって、仕方ないんだ、これは、だって、そんな、俺は、)



「…玉森…?」
しばらく玉森が二人を落とした崖下を見つめていると、用を足し終えた伊野尾が戻って来る。
殺気立った玉森をキョトンとした様子で眺めた。
「…何か、あった?」
何か、って。もう玉森にだって何が何だかわけがわからない。
自分じゃない自分。でも突き落とした感触は手の中に残っている。
突き飛ばして、叩き落した、二人の細い身体も。落ちる姿も目に焼きついている。
自分がどんどん許されないものになっていくのを感じて玉森は伊野尾を振り返る。



「…何もないよ」
笑顔で、答えた。



【阿部亮平・岩本ひかる 死亡】



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