18.



真夜中の海は漆黒。
吸い込まれそうな大きな黒。
そして星が綺麗で、自分たちのいる場所はとても幻想的に見えた。
「…横尾君って何で俺を選んだんですか?」
それは宮田の当然の疑問だった。
「お前、今更?」
その質問を横尾は少しだけ馬鹿にしたように笑う。
校舎を出てからずっと宮田はそんなことを考えていたのかと思うと、それはとても面白い。
そして自分がそのことに大した理由を置いていないこそ、余計に面白かった。
宮田には悪いことをした、と横尾は思っている。
「宮田さ」
「はい」
そしてこれから宮田に問うことはそれこそ面白ことだと、横尾が一番思っていることだった。
「じゃあお前は、俺のペアって誰だったと思う?」
「……」
横尾の問いかけに宮田は何も答えることが出来なかった。
だから横尾は笑った。
誰もが良い天気を喜ぶわけではない。
誰もが綺麗な星空を喜ぶわけではない。
誰もがデビューを望んでいるわけではない。
全てに本気だと、そう思われているならたまったもんじゃない。
ただ気ままに楽しく、活動してきただけ。それが「ぬるま湯に浸かっているだけ」言われても、それで良かった。
今更こんな、自分を無理矢理奮い立たせなくてはいけないことに巻き込まないで欲しい。
自分がいつ、そんなことを希望したというのか。
そんな気持ちや期待も野心もとうに捨ててしまった。
(…捨てなくちゃ、やってられなかったし)
横尾は静かにそう思う。
数年前のあの日、それなりに居心地の良かった場所はあっさりと奪われてしまった。
奪ったのはアッチだけど、奪われたのは自分の所為。
だから尚更、何を期待しろというのだろうか。
期待させるほうが酷なのに、それでもいつまでもしがみついている自分は、酷く矛盾しているのだけれど。
横尾は宮田をチラリと見た。
だから、こんな自分だから、宮田だった。
「…北山と藤ヶ谷だったら面倒くさいことに巻き込まれそうだったから」
「はい」
「千賀と二階堂じゃあ、ちょっと気がひけたから」
「…はい」
「だからお前だったんだよ」
それだけだよ、と言うと宮田は少しだけ間を空けてからいつものように表情を緩ませた。
「それくらいの方が、俺も気が楽です」



それから少しだけ二人は死ぬ場所を求めて歩いた。
せめて最期くらい苦しまずに死にたい。
生憎横尾と宮田の武器は、コンパスと定規で使えるような代物ではなかった。
「玉森に最期に会いたかった、とか無い?」
「んー…俺がいつまでも生きてても、玉森も辛いでしょうし」
「まー確かに微妙だよなぁ」
捨てた側と捨てられた側。
宮田と玉森の本音や、真意の一番深いところは横尾には結局分ることは無い。
そして分かったところで何も無いことを横尾は知っていた。
「っていうかお前、そんなに玉森のこと考えてんだ?」
「あ、いや、言い訳にしちゃってるだけかもですね」
「なるほどね」
じゃあこんな場所かな、と海に面する崖の上に立って横尾は大きく息を吸う。
黒い海。でも綺麗だと感じる。きっと昼間は澄んだ青色をしてるだろう。
恐怖心が全くないと言えば、嘘だ。
自分の全てが終わる。
それがどういうことなのか、まだ、実感は無い。
隣の宮田から緊張を感じることは無く、ただ覚悟を決めたように横尾の隣に立っていた。
そんな宮田を見ると横尾は少しだけ不思議な感情にとらわれる。
一緒に死ぬというのに結局、宮田の考えてることは何も分らない。
誰も本当のことなんて分かって無かったのではないだろうか。
そんなもの、最初から無かったのか。
「…お前が先に死ぬ方が玉森辛いんじゃねーの?」
横尾の問いかけに宮田は答えようとしなかった。
ただ少しだけ笑って、宮田の身体は海へと吸い込まれた。
もしかして、と横尾は思ったがそれ以上の思考は止めて、何も考えずに海へと身体を沈めた。
(…、見せてくれた?)
最後にほんの少しだけ、横尾は宮田の真意を覗いたような気がした。



【横尾渉・宮田俊哉 死亡】



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