17.



平和だ、と五関は思った。四人で他愛ない会話をし、食事をし、適当に遊ぶ。
もしかしたら今置かれている状況は夢か嘘なのかもしれない。
殺し合いなんてそんなことは初めから無かったのかもしれない。
「五関君ッ、タッチタッチ!」
「ん?」
森本たちと遊んでいた河合が息を切らしながら、五関の元まで戻って来る。
ギブアップ、と言いながらも笑顔を浮かべていた。
「もー、アイツらまじ際限無いって!」
ちょー疲れたんだけど、と河合がダイニングテーブルの椅子に腰を落とすと、パタパタと二つの駆け足が聞こえてくる。
「河合君なに休んでるのー!」
「まだあそんでよー!」
疲れを知らないちびっ子二人に囲まれて、河合は降参というように両手を挙げた。
「今度は五関君のおにいちゃんが遊んでくれるって」
「五関君ホント?!」
「えー」
遊んで遊んでと慎太郎に引っ張られ、龍太郎に背中を押され五関は連れ去られる。
やっと解放された河合はやれやれとダイニングテーブルに上半身をぐったりと預ける。
ひと段落して息を吐く河合を五関はチラリと見やった。
そして龍太郎と慎太郎の顔を交互に見て、微笑んだ。
「…河合のお兄ちゃんも一緒に遊んだらもっと楽しいと思うんだけどなー」
「そうだよね、河合君も一緒に遊ぼうよっ!」
「あそぼうよ!」
「ちょ、五関君ッ!!」
本当に平和だと五関は思った。
だから今のままで、このまま四人で死のうと決めた。
河合に相談もしないでそう決めるなんて、身勝手なのかもしれない。
けれども河合も死を意識した時間を過ごすより、このまま何も知らない方が良いと思った。
どちらかのペアが生きるためには、どちらかのペアが死ななくてはならないということを自分たちは忘れすぎている。
昼間に食べた鍋はまだ半分残していた。
「全部、全部」と強請る森本たちに味を変えて夜に食べようね、と言い聞かせた。
食べるものだって育ち盛りの子どもが満足出来る量はもう無い。
五関はポケットに忍ばせた液体の小瓶を思い出す。
これがどんな効果を発揮するのかは分らないが、武器と同じ扱いだというのなら、そういうことなのだろう。
せめて苦しまずに死ねたら良いと、静かに思った。





18時の放送で、死者が増えたことを知った。
五関は河合の目を盗み、そっと鍋の中に液体を混ぜた。
ごめん、と小さく誰にも聞こえないように呟いた。





そして 五関はくすんだ色をした天井を見つめる。
時計の針はもうすぐ23時を指そうとしていた。
(…死ななかったな…)
夕食は皆で揃って食べた。
全く普通の光景で、鍋の味付けも中々なもので全てをたいらげた。
けれども食べている間も食べ終わった後も、死を感じる変化はなかった。
夕食を食べ終えた後、森本たちは変わらず騒がしく遊び、そのうち疲れて眠り出してしまった。
すやすやと聞こえる寝息に河合は微笑ましそうに笑ったが、五関は笑うことは出来なかった。
22時を回った頃、五関と河合は交代で仮眠をとり万が一に備えることを決めた。
森本たちはリビングのソファの上で眠っており、見張りはその場所で行うことを決めた。
相談した結果、五関が先にリビングの隣にある和室で身体を休めることになる。
押入れにはマットと毛布がありお世辞にも綺麗とは言えなかったが、五関はそれらを身に纏い横になった。
けれども眠ることは出来ない。
(このまま、目を瞑って…二度と起きることが無いとか…)
けれどもそれは無い、と五関は感じた。
意識もハッキリしており、疲れている身体のはずなのに全く寝付けない自分がいるのだ。
そしてそれは時間を追うごとに強くなり、何かに急かされるように興奮している、そんな自分を感じ続ける。
これは一体何なのだろうと思った。
ドクドクと少しずつ鼓動が速まる。心音を感じる。
変化は、これだった。
これがあの薬の影響だというのなら、一体これでどんな効果があるのか。
興奮しているのは、確かだ。身体が動きたくてうずうずしている。一種の躁状態なのかもしれない。
そして、恐れることは何も無いと思った。
手を握り締め、開く。汗ばんだ手のひらの湿っぽさを感じた。
もしかして自分は、そう五関が思ったときコン、と部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。
「…?」
交代の時間かと時計を見たがまだそれより30分以上も早い。
「…河合…、何…?」
返事は無い。
出来れば、今、会いたくない。
じくじくと身体が疼く。何かに掻き毟られる衝動は収まらない。
今、危険なのは、自分だ。
五関はただジッとしていたが、それ以上扉の向こうから音はしなかった。
「……」
そっと立ち上がり扉に近づく。
河合、と声をかけても応答は無かった。
扉を叩く音は聞き間違いだったのか。
そう思いながら五関がゆっくりと扉を開けると、やはりそこには河合の姿があった。
「何だよ、いるならちゃんと返事くら、…い…、…?」
ため息交じりの文句を告げる五関に、河合からの返事は無かった。
河合はただ力なくそのままうつ伏せに倒れ、その背中には先程料理で使った包丁が刺さっている。
「…ッ、えっ…」
河合の目は開かれたまま瞬きをしない。
血の気の失われた白い顔を見て、もう駄目だと五関は思った。
そして。
「五関君、五関君っ!」
龍太郎がきらきらとした瞳で五関を見つめる。
もっと遊んで、と言う表情は先ほどまで見ていたものと同じで。
けれども身体には河合の返り血が、そして台所にいくつもあったのだろう、もう一本包丁を抱えていた。
「――ッ!!」
五関の身体に包丁を突き立てる龍太郎は無邪気そのもので、心底楽しそうだった。
でも五関には龍太郎の気持ちが分ってしまう。
誰かを殺したい、殺したくてたまらない。
そんな気持ちを五関も抱いていた。
恐怖心を忘れ、躁状態を作る。それがあの薬の効果だというのなら、「当たり」の武器だったのかもしれない。
けれども五関は龍太郎に刺され意識が遠のく中で、一つの光景を目にする。
後から起きた慎太郎が龍太郎に刃を立てている。
そしてそれは、龍太郎と同じように「あそんで」と言っているような表情。
子どもには強すぎた効果、敵と味方の判別もつかない。
「外れか」と五関は思い直した。





ごめん、と五関はもう一度心の中で呟き、そしてゆっくりと目を閉ざした。





【五関晃一・河合郁人・森本龍太郎・森本慎太郎 死亡】



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