16.



二回目の放送は18時に流れた。
不思議と日はあまり長くなく、また街頭などもほとんど無いため、辺りは既に薄暗かった。
藤家と淀川の死を告げる放送を聞いて、アクンは立ち尽くす。
「ヨネさん…」
「それ以上言うな」
米村はアクンの言葉を制して唇をかすかに上向きに尖らせ、噛みしめた。
メンバーの死が悲しかったのか、それとも現実味を帯びた「死」の恐怖に苛まれたのか。
アクンにすら告げていない、米村の武器はドラムのスティックだった。
こんな皮肉があってたまるものかと、暗くなった空を見上げた。
「米村君…?」
米村を呼ぶ声に先に気づいたのはアクンで、その声が聞こえた方を振り向いた。
「…あー…知念…?」
暗闇の中で小さな姿は良く見ることが出来ず、ごしごしと目元を擦りながら二人は知念を捉える。
「良かったぁ…知ってる人がいて…」
にこにこと警戒心無しに近寄って来られれば、米村もアクンも警戒することは出来ない。
トトト、と小さな身体で駆け寄ってくる知念。荷物は何も持ってはおらず、ペアらしい相手もいなかった。
どうしたのか、というように二人が覗き込めば知念は途端暗い表情を見せた。
「京本君がペアだったんですけど…途中ではぐれちゃったんです…」
知念の話ではこうだった。
知念と京本は歩いている途中で何かの爆発に巻き込まれてしまった。
自分たちに怪我は無かったのだが、強い風と充満する煙で二人ははぐれてしまったという。
知念はその時に不注意で支給の鞄を無くしてしまい、水も食料もなく困り果てていたという。
「でも誰に声をかけて良いのかも分らなかったですし…」
確かにそれはそうだと米村は思った。
そこで人選を間違ってしまえば、武器も何もない知念一人殺すのは簡単極まりないことだろう。
「僕は米村君たちに会えたから良かったんですけど…京本君が心配で…」
そこまで言って知念は苦しそうな顔を見せた。
小さな身体で、小さく首を横に振る。
「ううん、京本君の心配をしてるんじゃないんです。もしどこかで京本君が死んじゃったら…僕死んじゃうから…」
だから自分の心配しかしてないんです。
そう弱弱しく自己嫌悪に潰されそうになる知念を見て米村の胸はキュッと詰まった。
どうしてこんな小さな子が、こんな理不尽な罪の意識に苛まれなくてはならないのだろうか。
せめて自分が小さなときはこんなことを考えることは無かったはずだと、知念を抱き上げ労るように頭を撫でてやった。
「大丈夫。俺たちがちゃんと見つけてやるから」
なぁアクン、と米村は知念を抱き上げたままアクンを振り返る。
しかし、えっ、とアクンは渋い声を出した。
「いや…でもヨネさん…」
「何だよ?」
「その…」
言い渋るアクンに米村はきつい視線を向ける。
「何だよ、お前知念のこと疑ってるのかよ」
可哀想だろうがこんな小さい子を、と米村は更にアクンを言いなじる。
「や、それもそうなんですけど、…でもっ…」
ジッと知念は縋るように米村を見つめる。
どうしたって米村は知念のことを疑うなんて、そんなことは出来なかった。
「でもじゃねーよ、薄情モン」
米村はそういい捨て知念を抱き上げたまま、アクンに背を向けた。



アクンはついてこなかった。
米村は完全にヘソを曲げたようにぶすっとした顔で知念を抱えて歩み進めた。
そんな米村の顔を知念は心配そうに見つめる。
「…あの…やっぱり離れ離れになるのはよくないと思います」
「そーだけど、お前…」
「大丈夫です!僕、仲直りできます!ちゃんと言えば分かってもらえます」
「…うーん…」
喧嘩じゃないんだけどな、と米村は思ったがそれはあえて言わなかった。
「あの、僕飴持ってるんですよ。すごく美味しいんです」
だからこれで、と言う知念の言葉に米村は少しだけ吹き出した。
そんなもので仲直りなんて子どもの考えることだと、どこか微笑ましくも思った。
(…あれ…、でも…)
知念のその何でもない一言に米村は首を傾げる。
ポケットをごそごそと探る知念。
しかし、一切の私物はもうどこにも無いはずだ。すくなくとも米村はそうだった。
米村が普段かかさず持ち歩いているガムやフリスク。
校舎を出た後に気づいたのだが、どんな些細なものさえポケットの中には無かったのである。
だとしたら知念の言う「飴」は果たして彼は本当に持っているのだろうか。
知念自身取られたことにまだ気づかずにいるのだろうか。
それとも、嘘か。
嘘だというなら何故……、



サクリ、と肉を切る音がしてその部分が焼けるように熱くなった。
知念はポケットから彼の武器である手裏剣を取り出し、鋭い刃の部分で外すことなく米村の頚動脈を裂いていく。
噴水のように血しぶきがあがり、もう米村は声すら出せない。
ただ、最期に黒目がちの知念の瞳を捉えた。
顔一杯に知念は笑顔を作り、それはまるで愛らしい天使のような表情。
「バイバイ」
米村はその場に倒れ、自分を抱き上げる相手を失った知念はトン、と軽く地面に足をつく。
ドクドクと流れる血でお気に入りのスニーカーを汚さないように注意しながら振り返った。
「もう出てきていーよ」
その言葉で木の陰から怯えるように二人分の鞄を持った京本が姿を見せた。
「そっち行くから来なくていいよ。京本君嫌でしょ?死体見るなんて」
真っ青な京本に知念は年下の子を甘やかすように声をかける。
「…ぼく、あの…ぼく…、…」
ガタガタと震える京本に知念は微笑みかけた。
「京本君は悪くないよ?僕の言うことだけ聞いてれば生き残れるから」
ね?と京本を言い聞かせながら、知念は倒れた米村の鞄の中を空けて荷物を確認する。
残っていた水と食料は取り上げた。
武器がスティックだと気づくと、舌打ちをして、それは取り上げなかった。
「チョロいんだよ」
そう言い捨て知念は米村から離れる。



やがて少し離れた場所で爆発する音が聞こえた。
けれども、知念はそれを気に留めようともしなかった。



【米村大滋郎・伊郷アクン 死亡】



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