14.



「…何だよそれ…」
誰もが大久保に同情していたが、高橋だけは違った。
自分の思いを踏みにじられた気持ちでいっぱいだった。
「健翔目の前にして何でそんなこと言えるんだよ!お前、俺たちのこと何だって思ってんだよ!」
何のために誰のために。
今までは、一体なんだったというのか。
そんなふうに怒鳴り散らす高橋を大久保は身勝手だ、と思った。
誰も何も、真田を失った自分のことはわかってくれない。
「…俺だって…真田と一緒に死にたかったよ…」
搾り出されるような言葉。
そしてその言葉にとうとう高橋が切れた。
「ふざけんなっ!」
今にも殴りかかりそうな程に前のめりになる高橋を、山下は必死で抑える。
「落ち着けって、落ち着けよッ」
「落ち着けるかよ!」
「何だよお前だって健翔健翔って!健翔に会いたかっただけだろうが!」
「うるせぇっ!」
何でこんなことになった。
こんなことは望んでいなかったはずだ。
けれども、大久保がサッと手を伸ばしポケットに忍ばせていたアイスピックを取り出す。
殺意が芽生えた瞬間だった。
けれども鞄ではなく、ポケットに入っていたアイスピック。
最初から分かり合おうなんて無理だったのかもしれない。
「…ッ…」
高橋は山下を振りきり、鞄の中を開けた。自分の武器で応戦しなくてはならない。
慌てた様子の高橋を見て、大久保は嘲笑する。
「分かってんだろ、俺殺したら健翔死ぬんだからな」
大久保の声が響いて、高橋はグッと溢れそうになった涙を必死で止めた。
何で。何で何で何で。
高橋はどうしようもなく自分の無力さを感じ、落胆した。
そして本気で大久保がそんなことを思っているのかと思い、落胆した。
人を狂わせることなんて簡単なんだ。
現に自分だって、大久保に立ち向おうと武器を取り出そうとしたじゃないか。
その程度なのだと、みんな。自分を含め、みんな。
やっぱり自分は間違っていたのかもしれない、と高橋は思う。
会わなければ、こんな思いをすることは無かった。
自分の我儘とエゴに巻き込んだだけだ。
アイスピックを構えた大久保はその鋭い先端を高橋に向け、進もうとしていた。
やめろっ、と山下の声が響く。
高橋はその山下の声すら、「自分が死んだら拓海は死ぬから、だから」と穿った見方しか出来ない。
だからもうどうでも良くて、そういえばさっきからちっとも声が聞こえない健翔はどうしたのだろうと頭の隅でボンヤリと思った。



次の瞬間パララッ、と乾いた機関銃の音がして、土の上に赤い血の斑点が模様を作った。



「…え…?」
目の前の顔を赤くして怒りをあらわにしていた大久保は一瞬で倒れ、物を言わなくなった。
倒れた大久保の先に見えるのは必死な顔で機関銃を構えている冨岡の姿だった。
「もう止めようよ…」
「健翔…」
「こんなことするために、集まったわけじゃない…。大久保だって最初は…皆に会えること楽しみにして…それで…」
もう一度グッと力を込めて冨岡は機関銃を発射させる。
高橋の細い身体が衝撃に耐え切れず壊れたように跳ねて、その場に倒れた。
山下は息を呑む。
何が起きているのか理解できない。
「嬉しかったんだ…竜が会おうって言ってくれたこと…」
「健翔…」
「だからもう、それだけでいい。…それが最後の思い出でいい…」
何も本当のことなんて知らなくていい。見なくていい。
そう呟いた冨岡に、殺される、と山下は思ったが機関銃の先端は冨岡自身に向けられた。
山下は止めることは出来ずにその場に立ち尽くす。
乾いた音が聞こえて、冨岡から噴出した血が山下の服を汚した。
「…、…」
三つの横たわる身体を見て、山下は声を出すことも出来ない。
ただ真っ赤に染まった機関銃を持ち上げて、その重さを感じた。
どうせ自分もそのうち死ぬのだろうと高橋を見て思う。
もう死んでしまったのか、まだ生きているのか判断は出来ないが山下には助けることは出来ない。
助けてどうなる。



バタバタと走る音が山下の耳に入る。
「…拓海…?」
稲葉と秋山が現れて、自分は高橋を叱責したけれど、二人が来てくれたことが嬉しかった。
やっと六人が揃って、もう辛いことは何もないんだ。





やがて山下の首輪の音が鳴る。
同時に山下は機関銃の先を二人に向けて、引き金を引いた。





【秋山大河・稲葉光・山下拓海・高橋竜・大久保彰将・冨岡健翔 死亡】



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