13.



六人の中で一番初めに校舎を出たのは高橋と山下だった。
「みんな、来るといいけど…」
ポツリと呟き校舎を振り返った高橋に、山下は小さく首を傾げた。
「…何のこと?」
「あ、俺、みんなに…いつもの六人にメモまわしたんだよ。集合しようって!」
大人たちに見つかることなくメモは回りきったはずだ。
何人かは視線で高橋に返事もくれた。
いつも一緒の六人だったから、それはもう全員が賛同することが高橋の中では当たり前だった。
けれどもその言葉に山下の眉は大きく寄せられる。
「お前、何余計な事してんだよっ…」
「余計なこと?」
シンメトリーで行かされるだろうと踏んでいたから、高橋は山下にはメモを回さなかった。
どちらか片方だけが知っていれば必然ともう片方も知ることになる。
そして一方が拒絶することはないだろうと、そこまで思い込んでいる高橋は盲目だった。
「バカッ!お前ちゃんとルール聞いてたのかよ!」
「え、聞いてたけど…」
「一組しか生き残れないって、言ってただろ!」
つまりそれは、どういう意味を持つのかと。
そんなことは高橋だって良く分かっていた。
分かってる。言われなくたって分かってる。
でもだって、と意味を成さない言葉を並べて高橋はギュッとこぶしを握り締めた。
「…わ、っかないじゃん、どうにかなるかもしんないだろっ」
「どうにもなんねぇよ…どうすんだよ、見つけられた途端攻撃なんかされたら…」
その言葉に高橋の顔はカアッと真っ赤に染まる。
「…っ、アイツらはそんなことしない!」
頭の中は何も考えられず、真っ白になった。
昨日まであんなに信頼し合って楽しくやっていたというのに、突然そんなことを言うなんて。
信じられなかった。いや、信じたくなかった。
きっと山下は突然こんなことに巻き込まれてしまっておかしくなっているのだろうと高橋は考えた。
「こんな状況でまだ人を信じれるっていうお前のほうがおかしいよ…」
「…拓海…」
けれども、山下があまりに苦しそうに呟くから、放った言葉も本心ではないことを高橋は悟った。
自分の行動は安易だったのだろうか。
(でも…)
でも、それは高橋の我儘でしかないのだが、どうしても最後に会いたい仲間がいた。
(…健翔には会いたかったんだ…)
ただそれだけを望んで、巻き込んだ。
もしかしたら会わずに死んだほうが良かったのかもしれない。
こんなふうに、誰かが誰かを疑うのであればいっそ綺麗な思い出のままで死んだ方が良かったかもしれない。



「…竜…?」
それでも北へ北へと進み、やがて行き止まりになったところで聞き慣れた声がして、高橋は振り返った。
「健翔!」
高橋の追い詰められて緊張した心が冨岡により緩む。
目的を果たす事が出来た気持ちでいっぱいで、それ以外のことは一瞬何もかも忘れた。
しかし高橋が一歩近づこうとしたところで、冨岡が身構えた。
そして「ダメだ」と叫んだ。
「だめ、だめだよ…竜も拓海も来ちゃダメだ…」
「…健翔…?」
高橋も、傍でジッと冨岡の出方を待っていた山下も驚いたように目を開く。
冨岡はひどく動揺しているようであった。
「お、おかしいんだよ…大久保…、…っ…さっき…真田が死んだって放送聞いて…」
ほんの少し前に流れた放送は、高橋と山下には取るに足らないものであった。
でも誰かが死んだ。殺されて、死んだ。それだけは確かな事実。
次の瞬間、バッと人の現れる気配と音がして三人は身構える。
細い少年の腕が伸びで、その腕はドンッと冨岡を突き飛ばした。
「…ッ!」
冨岡は、よろけるような形で足を踏みしめ何とか転ぶのだけは避けた。
冨岡自身よりも早く非難の声を上げたのは高橋だった。
「おい!何すんだよ!…っ、大久保!」
現れたのは大久保で、彼はひどく興奮しているようであった。
「うるせぇよ!俺を、裏切ろうとしたからだろ!俺を、健翔がっ、」
その様子に山下が危機感を覚え、今にも食ってかかりそうな高橋を止める。
「何だよ、それっ…」
声を荒げる高橋に山下は、竜ッ、と再び制する。
何で俺が止められるんだと、高橋は山下を睨みつけ不機嫌をあらわにさせた。
「お前らだって俺のこと殺すために呼び出したんだろ!そうだろ!」
「違っ…落ち着けよ、お前何勘違いして…」
大久保の興奮は止まることは無かった。
顔を真っ赤にさせ、唇を震えさせ、深く大きく息を吸った。
そして。
「…ッ…じゃあ何で真田は死んだんだよ…ッ!」
その場に泣き崩れる大久保に、何も声をかけることは出来なかった。
会いたかった。
最後に会いたかった。
ただそれだけの願いも叶わないまま、もう二度と会うことは出来ない。
冨岡は突き飛ばされた肩を抑えながら大久保を見た。
そんな肩の痛みより大久保の心の痛みの方が、…そう思うのは同情なのだろうか。



しかしただ一人、高橋だけは冨岡と山下とは全く違う感情を持って大久保を見つめていた。



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