12.



「稲葉と秋山だったら、もうちょっと早くてもいいよね」
「…名前の順関係無いって言ってたじゃん」
第一もうちょっとどころか一番でも良いはずだ、と秋山は稲葉の言葉に少しだけ脱力をした。
残りわずかになったところで二人は名前を呼ばれ、やっと校舎を後にする。
息の詰まるような空間だった。一秒だっていたくはなかった。
けれども外に出ればそこは戦場で、どれだけ自分たちが安全な場所にいたのかということも分った。
パララッ、と乾いた銃の音が遠くに聞こえて、誰かが誰かを殺そうとしていることを知った。
そのどちらの場合も、昨日までは仲間で。
「大丈夫かな、みんな。…もしかして、もう…」
「やめろよ、大丈夫だって」
稲葉の言葉に秋山はまるで自分に言い聞かせるように反論する。
そして、手の中の白い紙をギュッと強く握った。
伊野尾と有岡と玉森が揉めているときに自分の手元に流れてきた一枚の小さな紙。
その紙が最後に辿りついたのは秋山で、それはおそらく筆跡から見て高橋が書いたものだった。
『校舎出たら、一番北の場所で集合』
どういった地形をしているのか分らないから、曖昧な指定であった。
しかし秋山はその紙に望みを託す。
いつも一緒に行動をしている六人にこのメッセージは伝わっているはずだ。
そして六人でいれば大丈夫、何とかなる、安心出来る。だっていつもそうだった。
あの六人であれば信じることが出来る。…信じることが出来るのは彼らだけだ。
そういう思いを抱いて秋山と稲葉は北へ北へと進み、やや緩やかな坂を上った。
小高い丘のようになっているそこを上がりきると少しだけ涼しい風が吹き抜けた。
良い天気だ、とこんな場所でもなかったら思わず呟いていただろう。
今聞こえるのは、先ほどと同じ乾いた銃の音だけ。
「…っ、え…?」
秋山は肩をすくめながらもう一度あたりを見渡す。
明らかに先ほどよりも大きな音で聞こえた、それ。
(…近くなってる…?)
ドクリ、と秋山の鼓動は大きく波打つ。
三度乾いた音が聞こえて、緊張は極限に達し涙が溢れそうになった。
身体が微かに震えて足が竦んだ。
そんな。
でも、だって、そんな。
「やばいって…大河…」
その事実に稲葉も気づいているようだった。
「何、がっ……や、分かってるけど」
「みんなが危ないっ!」
「……はッ?!」
そう叫ぶように稲葉は言い、突然音の鳴る方に走り出した。
秋山の緊張が、そして焦りが増す。稲葉を止めなくてはいけない。
「待てッ、…待てって!」
なりふりかまわず走り出した稲葉の背中を秋山は必死に追いかけた。
バカ、お前、お前死んだら俺も死ぬのに、何を勝手なこと。
嫌だ、死ぬのは嫌だ。
こいつの所為でこんなところで、俺は生きたいんだ。
痛いのも、苦しいのも、全部嫌だ。
六人でいたら誰かが守ってくれて、自分は助かるかもしれないから、だから。
だから、六人でいたいんだ。
それだけだ。
本当にそれだけなんだ。



そうして、秋山が自分の本心に気づいたとき走る気はなくなってしまった。
仲間のために走った稲葉との差を感じて、どうしようもなく自分に失望してしまった。
結局自分は自分だけが可愛いいだけなのだ。
あれだけ皆で笑っていた日々も嘘だったんじゃないだろうか。そんなふうにさえ思ってしまう。
でもそんな綺麗事を言ったところで、死んだら同じじゃないか。
その言葉が自分を包んで心地よくしてくれる。
そしてそれらを「言い訳だ」と否定する言葉も聞こえて、苦しくなる。
何でこんな思いをしなくてはいけないのだろう。
生きたい、と思うのは間違っているとでもいうのだろうか。
「…っ、痛って…」
秋山がふらふらと下を向いて歩いていると、ドンッ、と稲葉の肩に身体をぶつける。
急に立ち止まるなよ、と思いながら秋山が顔を上げると、そこに見えた稲葉の表情は真っ青な色をしていた。
「…え…?」
そして独特の嫌な匂いが鼻を刺激して、まさか、と思った。
まさか、その先を思う前に秋山は目の前の光景を捉える。
鮮やかな赤色に身体が染まり、その場に倒れている高橋と大久保と冨岡。



「…拓海…?」



機関銃を持っているのは山下で、ジッとその三つの身体を見つめ続けていた。



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