10.



余った、と船曳は途方にくれながら歩き続けた。
いつも揃って踊ることや行動することが多い中で、船曳は年齢が一つ上だった。
だから外されたり、他と一緒になることが多かったけれども、普段行動を共にするのは真田や渡辺たちだった。
でも自分は一つ年が上。その事実をこんなに悔やむことは今までになかった。
教室でペアで呼ばれるときから船曳はドキドキしていた。自分は誰かと一緒に行動させてもらえるのかと。
小野寺に渡辺、宮舘と佐久間、真田と野澤。そして同い年のくくりなのか阿部と岩本。
ほらみろやっぱり自分は余ったじゃないかと、次々に去っていく彼らの背中を見ては船曳は嘆くばかりであった。
そしてようやく呼ばれた自分の名前と、自分と一緒に行動する相手の名前。
一瞬誰、と言いそうになって慌てて言葉を引っ込めた。
こうやって校舎を出た後も気まずさは拭えず、沈黙を守ったままで歩き続ける。
何だってこんなことに、船曳はその言葉を繰り返しながら肩を落とし続ける。
「…あの」
「何?」
「…いや、あの…どこ行くんですか…」
「っていうか船曳君って何で俺に敬語なの?俺出戻りだからそんな気ぃ使わなくていいけど?」
小坂はそう言うが、そんなこと出来るものかと船曳は内心で叫んだ。
小坂自身が言うとおり、彼は一度辞めて戻ってきた。船曳は辞める前の小坂のことはよく知らない。
船曳は小坂が怖かった。
何を言われた、何をされたというわけではない。ただもう存在そのものに異様なまでの恐怖感を抱いていた。
その恐怖の対象が一心同体であり運命を共にするのだから、逆に言えば恐怖に怯えなくて済む。
しかしこの男を心底信頼しなければならないという状況が船曳にはどうしても受け入れられなかった。
例えば渡辺が小坂を殺そうとしたなら、自分は渡辺から小坂を守り渡辺を殺さなくてはいけないというのだろうか。
(…そんなのありえないって)
けれども小坂に死なれては困る。小坂が死ぬときは自分が死ぬときだ。
いっそ一人が良かったなどと思いながら小坂の後について歩いていると、突然チャイムのような音が辺りに響いた。
「放送か」
小坂が呟き、鞄の中から名簿を取り出す。
同時にペンも取り出して耳を傾けた。
「何の放送でしたっけ…」
「お前ルール聞いとけよ。死んだ奴と、禁止エリアの放送だよ」
そう言いながらさも当たり前のように小坂はクルクルとペンをまわす。
死んだ奴、と言われて船曳の背筋は凍った。
そして、続く放送の内容に船曳は更に身体全体を凍らすことになる。



放送は、増やされた禁止エリアと、佐久間と宮舘、真田と野澤の死を告げた。
そして吉田が新たに加わったことを告げた。
最後に「ペースが遅い」と聞かされた。



「…まだ四人か。そりゃ、遅いな」
知らねぇ名前、と小坂は呟き黒いペンで四人の名前を塗り潰した。
黒く塗りつぶされると名前は見えくなり、それはもう最初から存在していなかったようであった。
「…、…よ」
「は?」
「やめろよッ!」
船曳はドンッと小坂を突き飛ばし、よろけた隙にペンを取り上げた。
「…何だよ…お前何す…、」
「嘘だ!あいつらが死んだなんて嘘だッ!!」
喚く船曳の目には涙が滲んでおり、へぇ、と小坂は呟いた。
「仲良かったんだ?」
「……」
「お気の毒様」
「…ッ…、てめぇ何なんだよ!」
「だって俺は別に?知らない奴だし?」
痛くも痒くもないね、と言ってのけた小坂に船曳は奪い上げたペンを彼に投げつける。
地面に落ちたペンを小坂は拾い上げ、そしてまた一つクルリと回した。
そして必死に涙をこらえる船曳を、嘲笑した。
「泣くほどの奴らかよ」
その一言に船曳の頭の血は上り、ふざけるな、と怒鳴り散らした。
殴りかかろうと腕を上げ、しかしそれは小坂によって捕らえられた。
「何だよ!」
「殴ろうとしたのはそっちだろ」
「てめぇが言ったからだろ!ふざけんなよ!」
「ふざけてんのはそっちだろ」
途端それまでヘラヘラとふざけているようにしか見えなかった小坂の目が、真剣なものに変わる。
船曳は一瞬怯む。手を離しかけて、逆に小坂に手首を掴まれた。
それは少し強い力で痛いと船曳が訴えても小坂は力を弱めようとしなかった。
「じゃあ何だ?お前が殺したかったのかよ」
「…は?」
「そうじゃなきゃ殺されたかったのかよ。それしか無いだろ」
「…っ…」
「ペアがバラけた時点で諦めろよ。他の心配なんかしてんじゃねーよ」
小坂の言い分は分る。痛いほど分った。
死ぬか生きるか、殺すか殺されるか、もうそれしか無いのだ。
誰かが小坂を殺そうとしたら、自分はその誰かを殺して小坂を守らなくてはいけない。
それが例え今までどんなに仲の良かった相手でも、関係ない。
一緒に生き残るのは小坂だけでしかないのだ。
そんなことは分かっている。分かってる。
だけど。
「俺はお前みたいに割り切れない」
「…あっそ」
そう一言だけ呟き小坂は再び歩き出す。
船曳は一度グイと目元を擦り、それからまた小坂の後に続くように歩き出した。



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