9.



余った、と一人ポツンと残された教室で石垣はボンヤリと思った。
米村とアクン、淀川と藤家がそれぞれ揃って呼ばれた後は、自分はどうなるのだろうとずっと考えていた。
誰と組まされるのかちょっと興味深い、などとどこか呑気に構えていた。
そして、一人になった。
ありえないだろ、と石垣は単純にそう思った。
しかし有岡が一人を選んだ時点で誰か一人はペアを失う。だから当たり前といったら当たり前の結果なのだ。
けれども、まさか自分が該当するとは思わず、更に「一人で行け」などと言われたらたまったもんじゃない、と思った。
一人で行動すること、二人で行動することで生じるメリットとデメリット。
それでも石垣は「誰かと二人で行動すること」を望んでいた。
そんな石垣の動揺を悟ったかのように大人たちはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
安心しろ、と大人たちの一人がまるで石垣を全てを悟ったかのように言った。
何が安心しろだ、と石垣は思ったが言葉にはせず黙った。
手配はしてある、と大人たちは更に続けた。
「…手配…?」
思わず疑問を口にし、大人たちは「そう慌てるな」と静かに言った。
一組二分間隔で出発させられが、やれペアを変えたいだの、やれ恐怖で席を中々立てないなどというゴタゴタがあった。
そういうタイムロスを含めて簡単に計算をしても有岡が「一人で行く」という判断から二時間弱の時間が経過していた。
だからと言ってそんな短時間で?
まさかこうなることを予想して?
とにかくそんなことは全く石垣には分らなかったが、しばらくそのまま待たされていると教室の扉がドンドンと激しく叩かれた。
大人たちが何やら言葉をかわす。それは軍隊のような命令のような口調であった。
そして大人は笑う。お前の相棒の到着だ、と言われ石垣は流石に身構えた。
もしかしてこの子は例えば有岡が一人になる事を選ばなければ、ここに呼ばれなかったのではないだろうか。
そうだとすれば何と残酷なのだろう。それが運命だというのだろうか。
白い大きな袋がかつがれ、ゆっくりと教壇の下に横たえられる。
攫ってきたと言わんばかりの状況に石垣の眉は寄る。
石垣は立ち上がり、向けられるライフルも気にせずその袋に歩み寄る。
確かに自分たちは駒の一つにしか過ぎない。だけど、けしてこんな扱いを甘んじて受けるような存在でもない。
せめて自分が開けてやろうと石垣は白い袋に手を伸ばした。
紐を解いて、色素の薄い髪が見える。眠っているような息が聞こえて、何故だか石垣は安心した。
見えた顔は白く、綺麗な顔をした少年だった。
「……」
見たことはある。でもあまり接した事はない。
名前が思い出せなくて、石垣は戸惑った。
(…誰だっけ…)
きっと大勢の中に埋もれている一人だ、多分。けれどもやたら綺麗な顔で石垣はジッとその顔を見入った。
やがて少年は目を覚ます。
「…、…ぁ…?」
顔に似合わないややハスキーな声を聞いて、石垣の記憶がピンと弾けたように合わさった。
「…あ、れ…石垣君…?」
「…吉田…ッ…!」
お前吉田だよな、という石垣の問いかけに、吉田幸輝は「そうですけど」と不思議そうな声を出し、戸惑いを浮かべた。
「…俺どうして…?」
どうしてここにいるのか。
何で自分がここにいるのか。
その一切の説明責任を石垣は負わされ、自分が悪いわけではないのに何故だか申し訳ない気分になった。
何も理解していない吉田。
しかしその細い首にはしっかりと銀の輪が取り付けられている。
あのな、と石垣が話し始めて、吉田の目は小さく見開き始めた。





「でも、それってどっちかって言うと伊野尾君の所為ですよね」
「あぁ…まー、なぁ…」
校舎を出て当てもなく二人はとりあえず歩みを進める。
石垣の予想を反して吉田はあっさりとこの状況を受け入れたようだった。
自分が呼ばれた顛末を吉田は石垣から細かく聞き、そして最後にそう結論づけた。
「じゃあ、俺は有岡君より伊野尾君を殺せば良いんですよね」
「ちょっ…お前なぁ…」
「何か間違ってますか?」
「…、…いや…」
痩せすぎな白い身体は何とも頼りない。
けれども紡ぐ台詞は石垣よりも強く響く。
早く行きましょう、と吉田は石垣を急かす。
一人で行動すること、二人で行動することで生じるメリットとデメリット。
吉田の後に続く石垣はそれをボンヤリと考えながら、校舎を後にする。
もう誰も、ここには戻って来ない。
後戻りは出来ない。
吉田の方が正しいのかと、石垣は思いながら土を踏みしめただ歩いた。



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