8. 見てしまった。 見てはいけないものを見てしまった。 宮舘が倒れ、佐久間の身体が…、…それ以上は言うことが出来ない。 確かに八乙女光は自分にとって近寄りやすい先輩ではなかった。 でも、だからといってあんなに簡単に人を殺すなんて。 信じられなかった。 あの人の近くで自分は今まで何でもない顔で踊っていただなんて、そんな自分が信じられなかった。 昨日までの自分は何だというのか、何を知っていたというのか。 思えば自分は少しいい気になっていたのかもしれない。 学校でも仲間内でも少し目立つ方だった。 明るい性格、社交的な性格、物怖じしない性格、そんなふうに言われた。頑張っていると言われた。 プレッシャーで胃が痛んでも誰にも言わなかった。 そんなものに簡単に打ち勝てる、そういう自分でいたかった。 そして作り上げた自分は、皆の目に「そう在りたい自分」として映っていた。そんな気がする。 でも違った。 そんなじゃなかった。 だって自分は今こんなにも動揺している。 何て格好悪いんだろう。みっともない。こんなの誰にも見せられない。 ゲームが始まり、ペアになった子に「大丈夫だ」なんて「まかせろ」なんて、そんなふうに言ったじゃないか。 でも今の自分は何だと言うのだろう。 ただ、悲鳴を上げ、怯えて、逃げて、走って。 転んで膝をすりむいてもただただ走った。いや、まだ走っている。闇雲に、何も分からず。 もう誰もいないところに行きたい。 自分のプライドを傷つけない、そんな人で溢れているところにいきたい。 自分を恐怖に陥れるような、そんな人がいないところへ行きたい。 「君はすごいね」と言ってくれる人だけのところへ行きたい。 例えば誰かに怒られるのは、その分期待されているから。 そう、自惚れていた自分はどこへ行ってしまったというのだろう。 体力が消耗して走ることを止めかけたとき、背後から近づいてくる足音が聞こえた。 誰だ。 何だ。 何のために。 何のためって、そんな理由は一つしかない。 身体が震えた。 気を抜いたら全て胃の中のものを吐き出しそうだった。 宮舘と佐久間の、最期の姿が脳裏に映し出されて離れない。 体力を振り絞り、更に走る。走りながら鞄の中を明けた。 自分の武器は何だというのか。 鞄を空けると中身がバラバラと零れた。 時計も、方位磁石も、食料も、全部落ちていってしまった。 けれども武器だけは残っていた。神様はまだいるんだ。 でも、これは、どうやって使うというのだろう。 後ろからは「待て!」という声が聞こえる。待てるわけがあるものか。 銃? ナイフ? ライフル? …違う、ボウガンだ。 「待て」の声が大きくなる、どうしよう。どうしよう。 どうやって使ったらいいかなんか分からない。誰か教えてくれなくちゃ無理なんだ。 でも、これを使わなくちゃ。これが今唯一自分を守ってくれる、ただ一つの。 「…ッ!」 鞄の中から武器を引き上げた。 おそらく指を入れる場所に合わせて、持ってみる。 最初の一本は弓矢がセットされていた。 あとは引いて、相手に撃つだけ――… シュッと綺麗な音がして、弓矢は真っ直ぐに飛んだ。 脅しくらいになるだろうと思った。 しかしそれは、真田の意に反して向けた相手に命中した。 相手の身体を矢が貫いて、赤い血が胸に綺麗に広がる。 「うそだよねさなだくん」と言って野澤は口から血を吐き出し、その場に倒れて事切れた。 真田の肩の息は上がり、目の前の出来事を判断出来ぬままに呆然と立ちつくした。 自分は何故野澤を撃った? 何故、ペアだった、野澤を撃った? 「待て」という言葉は本当に「待て」だったのか? 「待って」じゃなかったのか?「待って、真田君」じゃなかったのか? 野澤の縋るような声が今更のように真田の耳にこびりつく。 自分は野澤を置き去りにしようとしたのに、追ってきてくれて、その彼を自分は撃ったというのか。 その事実に耐えきれずに、震えながら真田は矢をセットする。 銀の首輪が爆発する前に、真田は自分自身を撃ち、殺めた。 【真田佑馬・野澤祐樹 死亡】 next |