5.



人影が見えて動揺した。
進もうか戻ろうか、一瞬躊躇して足がもつれて転んだ。その際に音を立てた。
後ろの宮舘の足音がピタリと止まるのが分かって、自分は失敗したのだと佐久間は思った。
「宮舘と…佐久間…?」
藪にそう声をかけられて慌てて佐久間は起き上がろうとしたが、膝をついたところで身体は止まった。
震えて力が入らない。動けないのだ。
「…ぁ、はい。…ぐ、偶然…ですね」
取り繕うような宮舘の声が聞こえる。
こんな小さな孤島にほとんど監禁されているような状態で、偶然も何もあるものかと佐久間は思う。
それでも藪は宮舘の言葉に合わせるように「偶然だね」と笑顔を向けた。
先輩らしい笑顔を浮かべる藪にいつもの宮舘と佐久間なら「やっぱり藪君はいい人だ」と素直に思えただろう。
けれども今は違う。何も分からない。冷静な判断は出来ない。
その笑顔の下で自分たちを殺すことを、そのことしか考えてないんじゃないかと思うと身体の震えは収まらなかった。
「さ…くま、大丈夫?」
ようやく宮舘が動き出し佐久間の右腕をグイと掴んで引き揚げようとする。
少し痛かった。緊張して必要の無い力が出てしまっているようだった。
でもそんな強い力が無ければ佐久間は完全に起き上がることは出来なかった。
震えるな、と願う。
動揺がバレなければ良いと思った。
下手を打たないで、このまま別れたい。
「…じゃあ、俺たちは…」
これで、と佐久間は宮舘を引き連れて立ち去ろうとした。
「…はぁ?何言ってんの」
けれどもそんなことは光が許すはずもなかった。
先輩に会ってそんな挨拶程度で、という意味ではもちろん無い。
いつの間にか構えられていた光の銃口は真っ直ぐに佐久間と宮舘に向けられた。
「馬鹿じゃん。折角会ったのに」
「光ッ!」
ひゃッ、という恐怖に怯えた宮舘の声が聞こえて、けれども佐久間は声すら出せなかった。
パンッと打たれた銃弾は二人を過ぎ側の木に当たった。
縦断でえぐられた穴から立つ白い僅かな煙に、自分たちに向けられた銃は偽物ではないと直ぐに思い知らされた。
「あ、失敗失敗」
銃は本物だというのに光の放つ台詞はまるで玩具を弄っているような感覚だった。
それが怖い、と佐久間は背筋を凍らせる。
「う、…ぁ…うわあぁぁぁっ!!」
「…宮舘ッ!」
先に恐怖に耐えられなくなったのは宮舘の方だった。
鞄を抱えその場から一目散に逃げ出そうと走り出す。
待てよ置いていくのかよ、と一瞬遅れて佐久間も走り出す。
こんなことなら武器くらい調べておけば良かった。
でも自分たちは誰かを殺そうだなんてそんな考えは無くて。
そしてだからこそ誰かに殺されるだなんてそんなことも思わなかった。
甘かったんだ。
何もかももう遅い。
判断は最初から、間違っていた。
「光っ、やめろって、オイッ!」
藪の声が佐久間の耳に入る。
彼は助けてくれるのか。
けれども同時にもう一度パンッと乾いた音がして、目の前の宮舘がその場に倒れた。
「…え、…」
佐久間は思わず足を止める。
呼吸はあまり上がっていない、そんなに距離を離れる前に打たれた。
それは光に迷いが無いことを表していた。
うつぶせに倒れた宮舘の身体の下からは血の海が溢れ、広がっていく。
「…み、やだて…」
その光景は嘘みたいだった。
あまりに現実とかけ離れすぎて実感なんて無かった。
けれども広がり続ける溢れた血は地面を這って佐久間の靴を汚した。
こんなことが、あってたまるものか。




「嘘だろ…」
藪の静かな声が聞こえた。
光は黙ったまま、行こう、と藪を促す。
「宮舘死ぬよ。だから佐久間も死ぬから」
だから銃弾を無駄に使うことは無いんだよ、と言う。
それでも放心して動こうとしない藪に光はムッと眉を寄せた。
「何、それとも佐久間が吹っ飛ぶところ見たいわけ?」



ピー、ピー、と無機質な機械音が響き渡る。
佐久間の銀の首輪が騒がしく音を立てる。
足元の宮舘はとうに青白い顔をしているし、その音の意味が分らないほど鈍感でも無かった。
嫌だ、と呟いた瞬間、佐久間の身体は熱に包まれカッと光った。
あぁ死ぬんだ、と佐久間が思うよりも早く派手な音がその場一体を包み、木々は揺れ、鳥が飛んだ。



【宮舘涼太・佐久間大介 死亡】



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