3.



「あのさ…、ごめんね」
滝野はどうして自分が謝られたのか、不思議に思い首を傾げた。
少し後ろを歩く加藤は申し訳なさそうに眉を寄せている。
何故、と素直にそれだけを思った。
「なんで?」
名前を呼ばれて校舎から出た後、人目を避けるように茂みの中を二人で歩いた。
おろしたばかりの滝野のお気に入りのスニーカーは汚れてしまった。
「何っていうか…俺のせい、じゃん?」
「え?」
「滝野が巻き込まれたのってさ、…俺とさ、仲良かったからだよ」
加藤の言い分はこうだ。
滝野は自分と仲が良くなければ、参加自体に選ばれなかった。
自分と組まされるために呼ばれたのだと、だから自分の所為なのだと、言う。
それは確かにそうだろうと参加メンバーを頭の中に浮かべて滝野は思った。
自分はユニットに入ってるわけでもなければ、何が秀でたものがあるわけでもない。
ただ後ろにわらわらといるだけの一人で、参加するために呼ばれたこと自体不思議なのだ。
だからきっと加藤の言っていることは正しいのだろう。
「でもそれ普通面と向かって言う?」
「…へっ?」
いくら正しいからといって、それは自分に対して失礼だろうと滝野は笑った。
ユニットに入れるような器でもなければ芸も無いと本人を目の前にして言ったことに、当の加藤は気づいていない。
知識が豊富で勉強家で、喋りも上手くて、頭も良い。
そのくせ建前と本音を使い分けられるほどの大人では無い。
そういう加藤だから「ウザイ」などという言う言葉を滝野は少なからず耳にする。
けれどだからこそ滝野はそういう加藤が好きだった。
今みたいなのは失言で、でも本人は微塵にも「失礼」だとは思っていない。悪意は欠片もない。
それが、何となくなくではあるのだが加藤もまだ自分と同じ中学生なのだと思うことが出来て、滝野は安心することが出来た。
「そうだ、鞄の中って何だっけ?」
「え、…あー…武器と食料…?」
「ちょっと、見てみようぜ」
スタート地点の校舎からは大分離れた。
人目を避けるように深い木々の合間を縫うように歩いているから、一応気づく範疇で人の気配は無い。
大丈夫だろうと滝野は腰を下ろしチーッとファスナーを開け、鞄の中身を見た。
「あ、地図と…参加者の名簿もあるんだ」
案外丁寧だなと思いつつ、滝野はそれらを確認するように見る。
そして、不意にいつまでたっても自分の手元の陰が消えないことに気づいた。
加藤は立ったままだ。
「どしたの?」
加藤は固まったような表情でずっと滝野を見下ろしている。
「…何で、確認とかするの」
「え?」
「何?もしかして、滝野やる気あんの!?」
「…え?」
やる気、と問われて滝野はしばらく黙った。
目の前の加藤は「何で?人とか殺せるわけ無いじゃん!」と声を上げている。
大声出すなよ、と注意をしそうになったけれども、滝野はそんなことよりずっと考え込んでしまった。
「…やる気、無いの?加藤は」
「…っ、…当たり前じゃん…。殺せないよ…、今までみんな仲間だったんだよ?」
そうじゃん滝野ッ、と同意を求めるような加藤の言葉が耳に届く。
でもそれはどこか遠くで聞こえている。
仲間。
確かに仲間だった、でもそれは昨日までの話。
今日はもう違うとこのゲームが始まってから滝野はずっとそう思っていた。
「じゃあ、加藤は死ぬ気なんだ」
「…、…そんなことは言ってないけど…」
「だってそういうことだろッ」
無意識に語尾が強くなる。自分は間違ったことは言っていないと滝野は思う。
死ぬか生きるかのどっちしか無い。腹をくくるしかないというのに。
だって、と滝野は思った。
「だって、…少なくとも有岡君はやる気だよ」
あの中で一人は確実にやる気だ。
だったら、殺されそうになった側は?きっと死にたくなければ、相手を殺すだろう。
それが連鎖すれば、「やる気じゃない」と、そういう方が少ないのではないだろうか。
そしてそれは果たして「間違ったこと」なのだろうか。



あの後、伊野尾と玉森が居なくなった教室は何とも言えない重い雰囲気が漂った。
裏切った者、裏切られた者。それを全員が目の当たりにして、いつ自分がその二の舞になるか分からないと思い知らされて。
結局有岡は伊野尾の代わりを指名することなく一人で教室を飛び去った。
一人であることで生まれるメリットと、そしてもちろんデメリットもある。
けれども大人たちは有岡を許した。その方が面白いからだと思ったのだろう。
だってこれは所詮「ゲーム」だから。
「…有岡君は、伊野尾君と玉森君を殺すよ…」
だから自分たちも誰かに殺される。
そして、殺されそうになったとき、誰かを殺そうとするのだ。
「やめようよ…、そういうこと言うの」
本気で嫌気がさしたように加藤は滝野から視線をそらす。
こんな加藤を滝野は見たことが無くて、何故だか少し悲しかった。
昨日まで気の合う友人だったはずなのに、今はこんなにも分かり合えない。
「滝野…」
「…なに?」
「俺…、おかしいのかな…こんなふうに、思うの。…殺したくないって思うの…」
滝野の鞄の中には刃渡り数十pほどの包丁が入っていた。
それを見た瞬間、使える、と滝野は思った。
「…そんなことないよ」
何に使える、と思ったのか。
何に使う、つもりなのか、自分は。



少なくとも滝野は加藤より確実に狂い始めていると感じていた。



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